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283. 環境適応とシステムの発達


米国在住の最後の拠点であったロサンゼルス時代から、昨年の東京滞在期間において、 “dynamic system”や "systems theory”という単語が挿入されている専門書の中で、優れたものは大半購入したように思う。

昨日から本日にかけて目を通していたのは、 "Ecological Psychology in Context: James Gibson, Roger Barker, and the Legacy of William James’s Radical Empiricism (2001)”という書籍である。米国プログマティズムの始祖であり、かつ米国の心理学を切り開いたウィリアム・ジェイムズ(1842-1910)や、「アフォーダンス」の概念で有名なジェームズ・ギブソン(1904-1979)はかなり人口に膾炙した存在だと思うが、ロジャー・バーカー(Roger Barker:1903-1990)という心理学者を本書を通じて初めて知った。

本書を読み進めていると、ジェームズ・ギブソンとロジャー・バーカーのどちらも、人間と環境を分離するのではなく、両者の相互作用によって人間の認知や行動が決定されるという考え方を採用していたことがわかる。この考え方は、まさしく元ハーバード大学教育大学院教授カート・フィッシャーのダイナミックスキル理論の中で展開されている考え方と親和性が高い。

ギブソンが師事していたのはエドウィン・ホルト(Edwin Hold: 1873-1946)という心理学者で、ホルト自身はウィリアム・ジェイムズに師事しており、ギブソンの生態心理学(ecological psychology)はジェイムズの “radical empiricism(根本的経験論)” や “functional psychology(機能心理学)”の影響を多大に受けていることがわかった。

一方、ロジャー・バーカーは、ダイナミックフィールド理論で有名なカート・レヴィン(1890-1947)に師事し、レヴィンからの影響を受けながら環境心理学(environmental psychology)という領域を打ち立てた。レヴィンは、ゲシュタルト心理学を創設したカート・コフカ(Kurt Koffka: 1886-1941)から影響を受けており、そのレヴィンはバーカーを指導していたという事実と、ギブソン自身も大学で教鞭をとるようになってからコフカのゲシュタルト心理学に間接的にではあるが多大な影響を受けていたということがわかった。

こうした共通事情があったため、ギブソンとバーカーの思想には重なる部分が多々あるのだと思った。両者の思想において決定的に異なる箇所も存在すると思うが、現段階では両者の学説に深く踏み込んでいないので、細部の違いについてはわからないが、とりあえず両者は相通じる発達思想を持ち、それはカート・フィッシャーの発達理論にもつながるものがあるという発見を得た。

本書を読み進めながら、私たちの知性や能力を自力で育んでいくことにはつくづく限界があるということを改めて強く実感させられた。ギブソンの生態心理学的にも、バーカーの環境心理学的にも、私たちの知性や能力は環境に埋め込まれているという特質上、そして環境との相互作用によって知性や能力が発揮されるという特質上、環境を無視して自力で知性や能力を高めることはほぼ不可能だという考え方に至っている。

フローニンゲンの街中を歩きながらふと思ったが、日本や米国での生活を通じて構築した認知システムを一度も通過したことのないような新たな情報が、オランダという自分にとっては未知なる生活空間から投げかけられているのを感じるのだ。

もちろん、既存の認知システムで処理できる情報も多々あるが、それでもなお、一旦立ち止まらざるを得ないような新種の情報が環境からフィードバックされてくるのをありありと感じるのだ。

渡欧直前に、東京でお世話になったマンスリー・マンションの管理人さんから、「まずは向こうの水に慣れてくださいね」という言葉をかけていただいたが、まさにこれまでとは違った水を体内に取り入れ、体内システムがそれに順応していくように、徐々に自分の身体システムを作り変えていく必要があるだろう。

これは身体システムのみならず、心理システムにも当てはまる。思うに、心理システムは、環境に適応する形で作り変え作業が発生し、システム自身が変貌を遂げることによって進化していくのだと考えている。

つまり、知性や能力というシステムは、既存のシステム構造では処理しきれない新しい情報を未知なる環境から投げかけられることによって、構造自体を作り変えていく流れが生まれるのだと思う。この10年間で物理的な生活拠点を散々変更してきた挙句に実感することは、「人間=環境」と言ってもいいのではないか、というぐらいに、私たちの知性や能力と環境とは密接不可分に結びついているのだ。

そうしたことを考えると、人間が人間自身を変えようとすることは至難の技なのではないかと思わされる。要するに、環境からのフィードバックの種類と質を変えることなしに、私たちが自分の知性や能力だけに手を加えようとしても、知性や能力の発達はほとんど生じず、その努力は徒労に終わるのではないかということだ。

後一ヶ月ほどで大学院のプログラムが開始されるが、それを待つことなく、日々のこうした平穏な生活の中でも、環境からどのような種類と質のフィードバックが自己に投げかけられ、そして自分はそれをどのように受け止め消化しているのかをより明瞭に感知できるように、より一層自分の感覚を研ぎ澄ませる必要があると思っている。

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