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963. ある古書店での一冊の書物との出会い


昨夜の夢が私の身体と精神を治癒したためか、今日は心身ともに非常に調子が良かった。「タレントアセスメント」のコースに参加するためにキャンパスに向かって歩いている最中、常に気分が高揚していた。

もうすぐ五月に入るのだが、マフラーを巻き、手袋をはめながらフローニンゲンの街を歩いていても、その寒さが気にならないほどに気分が清々しかった。ここ最近毎朝、モーツァルトの交響曲を一時間ほど聴き、その後にベートーヴェンの交響曲を聴くような習慣になっている。

フローニンゲンの街を歩いている時の私の内側には、二つの交響曲が美しく折り重なって流れているような感覚があった。飛び跳ねながら街を歩きたい気分であったが、そうした衝動を抑えながら、いつもと変わらずに、人間の発達現象全般に関する考え事をしながら歩いていた。 「タレントアセスメント」のクラスが終了後、私はその足で、珍しく昼食を外で摂った。おそらく最後に日本以外の国でラーメンを食べたのは、サンフランシスコのジャパンタウンであったから、およそ四年ぶりに海外でラーメンを食べた。

今回足を運んだのは、街の中心部にあるアジア料理店であり、インドネシア人の友人であるタタにこの店について以前話を聞いていた。実際にこの店で売りにしているラーメンを食べてみると、非常に美味しかった。

注文したラーメンを完食した後に、ラーメン好きのオランダ人の友人であるピーターにこの店についてすかさずに連絡をしておいた。何年後になるかわからないが、ラーメンという食べ物をまたどこかの国で食べてみたいと思う。 昼食を済ませると、街の古書店に足を運んだ。この古書店に足を運んだ目的は、音楽関係の書籍と哲学書で何か良いものがあれば購入するためであった。

特に、一番の目当ては、ベートーヴェンのピアノソナタに関する解釈書であった。以前の日記に書き留めていたように、修士論文がほぼ完成の目処が立ち、新たな研究テーマを二、三立て、それらについて論文を執筆していこうと思っている。

それらのテーマのうちの一つが、ベートーヴェンのピアノソナタの非線形発達過程を研究するものである。大きな構想としては、ベートーヴェンの全生涯を眺め、彼の精神的な発達過程と楽曲の発達過程を比較対応させる形で研究したいと思っている。

今回はそうした大掛かりな研究に取り組むための前段階のものである。先日走り書きしたメモを見返してみると、最終的には、ベートーヴェンに関して少なくとも五本ほどの論文を執筆したいと思っており、小さなものから順番に列挙すると、「ベートーヴェンのピアノソナタ第1番の非線形的発達過程」、「ベートーヴェンの活動初期のピアノソナタの発達過程」、「ベートーヴェンの活動中期と後期におけるピアノソナタの発達過程と構造的比較」、「ベートーヴェンのピアノソナタ全32曲の発達過程」、「ベートーヴェンの精神的(思想的)発達過程とピアノソナタの発達過程の比較」を考えている。 これらは完全に私の純粋な関心から行われる研究であり、所属している大学院で要求されているような研究ではない。これまで培ってきたダイナミックシステムアプローチや非線形ダイナミクスの手法、そして発達心理学に関する知見を活用しながら、ベートーヴェンの精神的発達過程と彼が残した楽曲の構造的な発達を追いかけてみたいと思うようになったのだ。

こうした探究に私を引き寄せたのは、ウィーンでベートーヴェンが歩いていた道を実際に自分で歩き、彼が見ていた景色を実際に自分の目を通じて眺め、彼が生きていた場所に私が訪れたことと大きな関係があるだろう。

今の私の内側では、ベートーヴェンの存在が大きな位置を占めており、もはや見て見ぬ振りをして日々の生活を営めなくなってしまっている。とにかく私は、ベートーヴェンの精神の発達過程と彼の精神の表れである楽曲の発達過程を辿りながら、ベートーヴェンの存在を深く理解し、そこから転じて自分の内側をさらに深く理解したいという思いに至ったのだ。

その第一歩が、今回の研究である。この研究を進めるための参考文献として、近くの古書店を訪れた。

街の中心部にあるフローニンゲン大学のメインキャンパスの近くにあるこの古書店は、私のお気に入りの場所である。店内には、荘厳かつ壮麗なクラッシク音楽がいつも流れており、古書を吟味するのにこれほどふさわしい環境はないと常に思う。

店長も音楽好きな気さくな方であり、頻繁にこの古書店を訪れるわけではないが、ここに訪れる時は店長と少しばかり会話をするのが楽しみの一つだ。今日は、音楽関連のコーナーに真っ先に行き、オランダ語やドイツ語、そしてフランス語の古書を泣く泣く脇にどかしながら、 “The Language of Music (1959)”という古書を発掘することができた。

結局、哲学書を含め、三時間弱この古書店の中で様々な古書を吟味した挙句、購入したのはその一冊のみであった。この古書には、今の私に必要なものが凝縮されていることが感じ取られた。

残念ながら、お目当てにしていたベートーヴェンのピアノソナタに関する英語の解釈書を見つけることができなかったが、購入したその一冊の書物と出会うことができたことに対する幸福感の方が強かった。古書店から自宅に戻る私の内側では、今朝と同様に躍動感に満ちが音楽が流れていた。2017/4/20

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