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776. フローニンゲン大学のMOOCに関する研究へ向けて


昨夜の台風のような一日が嘘のように、今日は良い天気に恵まれた。今日は午前中から、フローニンゲン大学が提供するMOOCを通じて得られたデータを見せてもらうために、自宅から徒歩で30分ほど離れたザーニクキャンパスに足を運んだ。

昨日は、雨が混じった激しい風の吹く一日であり、それを象徴するように、自宅からザーニクキャンパスの道なりには、風で折れた枝が散在していた。散在した枝を脇目に、暖かな太陽を感じながら、目的地に向かった。 ザーニクキャンパスは、いつも何らかのコースの最終試験が行われる場所でもあり、何度か足を運んだことがあるのだが、今日のミーティングが行われる場所は初めて訪れた。建物の外見や中の作りは、私がいつも利用している社会科学キャンパスよりも新しい印象を私に与えた。

MOOCを統括するディエナム教授に指定されたミーティングルームに到着した時、ちょうど廊下の向こうからディエナム教授がやって来るのが見えた。簡単に挨拶を交わし、まずはディエナム教授の研究室で話をすることになった。

話によると、ディナム教授は社会科学キャンパスとザーニクキャンパスの両方にオフィスを持っているとのことであった。ディナム教授のオフィスに入って荷物を降ろした時に、エスター博士という、フローニンゲン大学のMOOCを担当している別の研究者が部屋に入ってきた。

ディエナム教授が私たちのコーヒーを作りに行ってくれている間、エスター博士と少しばかり雑談をしていた。なにやら、エスター博士は、修士課程は生物学を専攻しており、博士課程は精神医学を専攻していたそうである。

興味深い研究遍歴だったので、もう少し詳しく話を聞いてみると、精神科医のような臨床的な側面ではなく、生物学の観点を強調した研究を行うことによって、精神医学の博士号を取得したそうだ。そこからさらに研究者としての方向転換があり、現在はフローニンゲン大学のMOOCに関する研究やサポートに従事しているとのことであった。

ディナム教授がコーヒーを作ってきてくれた後、私たちは三人で、MOOCに関する研究の可能性について少しばかり話をしていた。今日のミーティングの趣旨は、まさに、どのような種類のデータがあるのかを見せてもらうことによって、私が研究アイデアを幾つか生み出し、その中からお互いのニーズに合致するものを選び、それを実際の研究として具現化させていくことにあった。

エスター博士がデータの概要について説明を始めて少し経った頃に、もう一人、別の女性が部屋に入ってきた。その女性はシャーロットという名前であり、彼女は神経科学の修士課程に所属しているとのことであった。

シャーロットは、一つの目の修士課程で認知科学やAIを学び、現在の専攻は二つ目の修士課程であるという説明をしてくれた。心理学を専攻していた学部時代に、Rを用いたデータ解析のコースや、他のプログラミング言語(C+やC++)に関するコースを通じて獲得したデータ解析能力を買われ、シャーロットは修士課程での勉強に加えて、MOOCに関するデータアナリストとしての仕事に週一度ほど従事しているそうだ。 前回のディナム教授とのミーティングでも話に聞いていたように、フローニンゲン大学のMOOCチームには大量のデータはあるものの、それをどのように分析したら良いのかについて問題を抱えている。近年のデータ解析で主流となっているRに精通したシャーロットのような存在は、貴重な人物なのだろう。

シャーロットが加わってからは、四人で意見交換を始めた。ディエナム教授の隣の部屋が、ちょうどシャーロットがデータ解析の作業をしている部屋とのことであり、エスター博士とともに、その部屋でMOOCの実際のデータを見せてもらった。

私の中では、MOOCの大量なデータに対して、ダイナミックシステムアプローチや非線形ダイナミクスの手法を活用したいという明確な考えがあった。ただし、それらを活用するためには、十分な時系列データが必要であり、実際にデータの形式を見てみるまでは、具体的にどのような研究ができるのかが定かではなかった。

実際にデータを見せてもらうと、ダイナミックシステムアプローチや非線形ダイナミクスを適用することができると瞬間的にわかった。あとはどのようなリサーチクエスチョンを立てるかが重要になる。

これはディエナム教授やエスター博士も述べていたことなのだが、単に現象を説明するような記述的な研究ではなく、現象の分析から実務的なインプリケーションが引き出せるような研究を行って欲しいという要望を受けた。

そのため、例えば、受講生が途中でコースからドロップアウトする要因を、提供するコンテンツの内容や構造から分析することや、最後までコースを継続させた受講生は、そのコースを通じてどれほど知識やスキルを獲得できたのかを測定し、学習成長率が高いコースの特徴は何なのかを明らかにすることなどが考えられる。

ただし、これらの二つの案はどちらも、構造的発達心理学の枠組みを活用することになるであろうから、すでに入手済みのデータをさらに別の観点から分析し、新たなデータを生み出すことが必要である。そのため、それらは、データを整理するのに少しばかり時間と労力を要することになりそうだ。

それらのテーマは面白いと思うのだが、まずはできれば、既存のデータに対してダイナミックシステムアプローチや非線形ダイナミクスを活用し、そこから実務的なインプリケーションを引き出すことのできる研究を行いたい。

そうなると、例えば、次のような案が考えられる。フローニンゲン大学が提供している通常のMOOCは、一つのコースが六週間で完成する構成になっている。

毎週のコースは、およそ25個ぐらいの学習ステップで構成されている。学習ステップとは、例えば、(1)ビデオレクチャー、(2)クイズ、(3)受講生同士のディスカッション、(4)リフレクション、(5)講義内容の補足資料など、合計で10個ほどの種類が様々な組み合わせによって構成されたものである。

これは私の仮説であるが、どのような学習ステップの流れでカリキュラムを構成するかによって、受講生がすぐに飽きてしまうことが起こったり、逆に受講生を強く引きつけたままの状態を維持することができるのではないかと思う。

想像するに、毎週のコースに25個の学習ステップがあるのであれば、それがどのような変動性の波を持っているのかを分析し、例えば、バッハの音楽のように心地良い波を持つピンクノイズを発している週は、学習者のドロップアウト率が低かったり、逆に、安定的すぎる波を持つブラウンノイズを発している場合には、受講生はカリキュラムの流れに単調さを無意識的に感じ、ドロップアウト率が高くなることが起こり得るかもしれない。

もちろん、これを一つのコースに対して行うだけでは他の要因からの影響を強く受け、一般化ができないので、フローニンゲン大学が提供する10個ほどのMOOCに対して分析をし、統計的な分析手法を活用したい。 より個別具体的に、例えば、どのようなビデオレクチャーが学習者を強く惹きつけるのか、という点に絞って分析をしてみるのも一つの案としてある。エスター博士曰く、受講生が最後までビデオを視聴したかどうかに関するデータもあるとのことなので、レクチャーの内容というよりも、レクチャーの難易度——複雑性——という観点に焦点を当て、それと最後までビデオを視聴したかどうかの関係性を見ていくことも面白そうだ。

この場合には、ビデオレクチャーのトランスクリプトに対して、カート・フィッシャーのダイナミックスキル理論を活用し、一つ一つのビデオの意味段落ごとに複雑性を分析し、個別スコアを算出すると共に、一つのビデオの平均複雑性を算出し、どのタイミングで受講生が視聴を中断しているのかを分析してみるというのも一案である。 さらには、最後までコースを完了させた受講生の中で、最後の課題で高い得点を得た受講生と低い得点を得た受講生とでは、コースの最中における学習プロセスにどのような違いがあるのかを調査するというのも、個人的には面白いと感じている。

正直なところ、研究をしてみたいテーマがこの他にも無数にある。今日は全てを書き留めておくことができなかったので、明日の朝に再度アイデアを書き留めておきたいと思う。2017/2/24

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