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290. 欧州小旅行計画


今日は先ほど、久しぶりに天気雨に見舞われた。空は晴れているのに雨が降るというのは不思議だな、と思っていた幼少時代のある記憶が鮮明に蘇ってきた。この記憶を再想起したことはおそらく初めてだったので、オランダのこの予測のつかない天候に対してある意味感謝をした。

上空を移動する雲の動きとズレる形で雨滴が地面に降り注いだのだろうか。それとも、少し離れたところにある雨雲が雨を降らせ、それが風に運ばれて今私の目の前に送り届けられたのだろうか。いずれにせよ、私の認識世界に新たな意味をもたらすこの天気雨に対して、地上の恵みだと感じたことに変わりはない。

天気雨の姿を思いながら、移動する雲とは異なり、あまり移動することをしない自分に想いを巡らせていた。具体的には、旅好きではない自分についてあれこれ考えていたのだ。

ある場所にそこにしかないものが存在し、そしてそれは自分が本当に見たいものや体感したいものなのかどうかを吟味し、自分の要求に合致するものがなければ旅へ出かけようという重い腰が上がらない、という特徴を自分は持っているのだと思う。

旅に関して私はそうした特徴を持っているが、この夏は欧州小旅行を計画している。というのも、ヨーロッパのある場所にそこにしかないものが存在していることに気づき、そしてそれは自分が本当に見たいものや体感したいものだったからだ。

今、フローニンゲンから東に向かって楕円形を描くような小旅行を計画している。具体的には、フローニンゲン(オランダ)→ライプチヒ(ドイツ)→シュツットガルト(ドイツ)→ニューシャテル(スイス)→パリ(フランス)→フローニンゲン、という順番で旅を行う予定である。

今回の欧州小旅行では、飛行機ではなく、電車を利用しようと思っている。その理由は幾つかあるが、一つには、ある地点から次の目的地に行くまでの地理的変化のグラデーションをじっくりと体感したいから、というものがある。

変化のグラデーションに関して思うのは、ある発達段階と次の発達段階のみに着目するような探究はもう十分なのだ。この考え方は旅に対する姿勢にも現れ、ある目的地と次の目的地だけをぶつ切りにして味わうような旅に意味も価値も見出せないのだ。

ある発達段階と次の発達段階の間に起こっている多様なドラマを探究したいと思って、私はフローニンゲン大学に来たのだ。そうした考えを持つ自分が、自らの生活において、飛行機を用いて地理的変化の過程を飛ばすことはできないし、地理的変化が自らの内的変化に及ぼす影響過程を見過ごすわけにはいかないのだ。

欧州では格安航空会社が凌ぎを削り、航空券の費用が安いのは知っている。しかし、それでもそちらを選んではならないのだ。電車の車窓から見える景色の変化と共に、自分が何を思い、何を感じるのか、そしてどのような微細な変化が内側で生じるのかを観察したい。そのような思いから、今回の旅は電車で各国を回ることにした。

今回は本当に小旅行という名前がふさわしく、一拠点に比較的長く滞在して現地の人たちと同じような生活をするというのが通常の私の旅の仕方だが、これでも今回は巡る箇所が多い方なので、各地に滞在できる日数はごくわずかである。

ごくわずかな滞在日数の中、「ここだけはどうしても訪れたい」という具体的な場所を記載しておきたい。

まずは、ライプチチであるが、この都市は何と言っても音楽の街だ。敬愛するヨハン・セバスティアン・バッハを筆頭に、フェリックス・メンデルスゾーン、ロベルト・シューマンとクララ・シューマンなどのドイツを代表する音楽家が活動した街である。そのため、どうしても訪れたいのは、(1)バッハ博物館(Bach-Museum Leipzig)、(2)バッハが長らく音楽監督を務めていたトーマス教会(St. Thomas Church)、(3)メンデルスゾーン博物館(Mendelssohn-Haus)、(4)シューマン博物館(Schumann-Haus Leipzig)の四つである。

フローニンゲンを早朝に出発し、ライプチヒまで電車で8時間ほどゆっくりと時間をかけて移動したい。ライプチヒで二日間ほど滞在した後に、シュツットガルトへ向けて5時間ほどの電車の旅を行う。

シュツットガルトで訪れたい場所は一ヶ所しかなく、それはヘーゲル博物館(Museum Hegel-Haus)である。シュツットガルトではヘーゲル博物館だけを見たいので、宿泊は一泊を予定している。

その後に向かう先が、待ちに待ったスイスのニューシャテルという街だ。実はこの街には何もない。正確には、何か美術館や博物館などの目星の建物があるわけではない、ということである。ただし、ニューシャテルは自分にとって極めて重要な場所だと感じている。

なぜかというと、風光明媚なこの街は、発達心理学の領域に多大な貢献を残したジャン・ピアジェの生誕地であり、彼が初期のキャリアにおいて生物学者として活動していた場所だからだ。

つまり、私はニューシャテルという街を訪問することで、ピアジェが見ていたであろう景色を眺め、同じ空気を吸いたいと思ったのだ。ただそれだけのためにスイスのニューシャテルという街へ行くのである。

ニューシャテルという街で、自分の中にピアジェを見出すことができれば幸いである。何もないニューシャテルには二泊する予定であり、その後、パリへ向かう。

パリという街は、私を惹きつけるような強烈な何かがこれまで一切無かったのであるが、森有正先生(1911-1976)と辻邦生先生(1925-1999)との出会いによって、急速に関心を持つようになった場所である。パリで訪れたい場所というのもそれほど多くなく、必ず訪れたいのは、森先生が教鞭をとっていたパリ大学東洋語学校、辻邦生先生が住んでおられた旧邸宅、ノートルダム大聖堂の三箇所である。

パリにも二日間滞在する予定なので、時間があればルーブル美術館に足を運びたい。今回の欧州小旅行でどのような出会いと発見があるのか、静かな気持ちで大いに楽しみにしている。

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