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79. シュタイナーの教育思想:三段階の意識発達レベル


シュタイナー教育と一般的な公教育や私教育を比較すると、教育学的なアプローチにその違いを見つけることができます。概して、多くの学校で採用されているアプローチは、子供の知性を直接的に育もうと専心したり、抽象的な概念を押し付けたりする傾向があります。

それに対して、シュタイナー教育では、子供たちの全人格的な発達を視野に入れながら教育を施す点が特徴的です。ピアジェの発達段階モデルにおいて、抽象的な思考(形式論思考)を十分に獲得することができるのは、14歳から15歳あたりであるとしています。

この点も鑑みてみると、発達論的見地を欠く教育というのは、思考の成熟度合いを度外視した極めて無謀な教育方法であると言えます。シュタイナー教育がどのように子供たちの知性を育むかを理解するためには、発達段階に応じた世界認識方法の差異を適切に理解しておく必要があります。

シュタイナーは、下記の三つの発達段階を想定しています。まず最初に、「物理的・身体的意識段階」と呼ばれる時期が0歳から7歳あたりに訪れます。この段階においては、エーテル体(生命エネルギーを司る)、アストラル体(直感、願望、意思、情熱などを含み、魂の領域を司る)、エゴ(0歳から7歳までは、エーテル体に帰属されているが、14歳に至る頃には、魂あるいはアストラル体に帰属するようになるとされている)という三つの身体意識領域が一つの物理的身体に融合しています。

この段階において、子供たちは視覚や聴覚的な感覚を通して世界を認識しているというよりも、この段階における認知そのものが感覚的であるため、身体感覚を存分に活用しながら周りの世界を探求しようとします。5歳から7歳にかけて、意識がより高次に発達してくるにつれて、認知が物理的・身体的な領域を超えて、徐々にエーテル体の領域を通じて生まれるようになります。

次の段階は、「感情的意識段階」と呼ばれ、7歳から14歳にかけて到達されます。この段階において、抽象的な思考はまだ芽生えておらず、より感情的・視覚想像的な認知特性を持っています。この段階における教育実践で大切なのは、シュタイナーが指摘しているように、子供たちの感情生活を刺激し、視覚的なイメージを用いた働きかけをすることにあります。

例えば、映画やテレビなどは、視覚イメージがすでに固定されていますが、本などの物語はイメージが固定化していないため、読み聞かせなどは視覚的思考を養うことにつながります。こうした視覚的思考段階を経て、この段階も後半になると、より微細な思考の実現に近づいていきます。

シュタイナーの発達モデルにおいては、14歳以降、ようやく抽象的な思考を獲得するとされています(抽象思考段階)。この段階になれば、身体的な成熟も完成に近づき、三つの身体が融合していた状態から、それぞれが互いに影響を与えながらも独立して機能するようになります。

シュタイナー教育において、この段階に対して、前段階で視覚想像的に学習した内容を再び抽象的な思考を用いながら再解釈し直すという学習機会を与えます。このようにして、同じ学習コンテンツでも、全く違った角度と認識方法でそれを捉え直すということをおこなっています。

これまで数回にわたりシュタイナー教育について見てきましたが、その教育哲学と教育方法は実に複雑かつ奥深いため、その全貌を数回の記事で詳細に捉えることはできません。しかし、これまでの記事から、シュタイナー教育は、子供の精神的成熟度合いを学習に対する準備期間と関連づけ、人間発達を広く射程に入れながら教育実践をおこなっていることが伝わったのであれば幸いです。 質問・コメント・記事の共有をご自由にしていただければ幸いです。

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