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2653.「型」について


時刻は夜の九時を回った。ざわめくような風が吹き、街路樹の葉を小刻みに揺らしている。

なぜだかわからないが、とにかく何かを書いておきたい。何を書こうとしているのか分からないが、とにかく書く。

馬車馬のように書く中で自己を落ち着かせる。地球が回るのと同速度で走れば止まっているように知覚されるのと同様に、自分の内側で何かが急速に運動を進めているのであれば、その速度と全く同じ速度で文章を書き留めておく。

書くことなど何もないのだが、それでも書く。何かが出てくるまで書き続ける。そして何かが出てきたらそれを起点にしてまた書くのである。人生はそのようにして進む。

先ほど、ウォルター・ピストンが執筆したハーモニーに関する書籍“Harmony (1978)”を随分と読み進めた。本書は500ページを越す大著であり、中味も濃いい。

本書を読み進める中で、この書籍がどれだけ今の自分にとっての肥やしになるかを考えていた。それは計り知れない。

ピストンは元々ハーバード大学で作曲理論を教えていたが、彼が実際に残した曲についてはほとんど知らない。よくよく考えてみると、私が現在参考にしている優れた作曲理論書の多くは、傑出した作曲理論家が執筆したものであって、生粋の作曲家が書いたものではないことに気づく。

バッハ、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンなどの過去の偉大な作曲家は、作曲理論に関する体系立てた解説書を残していないように思う。私が無知なだけであり、もしかしたら彼らも何かそうした解説書を世に残しているのかもしれないが、今のところそうした書籍とは出会っていない。

こうしたことからも、彼らは本当に作ることだけに専念した人間だったのだと思う。音楽の学位を持たず、またそれを取得する意思もない私が心配をする必要はないのだが、私が作曲を教える日などやってこないだろう。

全くそれは正しく、私はただ作り続けることさえできればそれでいいのだ。それが正直な思いであり、切実な願いである。

とにかく作り続けること。誰にも見えないところで、誰にも見られずにただ単に曲を作り続けること。

一つ一つの小さな曲が数珠つなぎのように一つの巨大な形になっていくように曲を作り続けていくこと。それが一つの巨大な曲だったということが自分の人生を終えた後になって初めてわかるようにすること。

それまでは一つ一つの部分を作っていく。その部分の中にフラクタルを具現化させ、一つの巨大なフラクタル構造の礎にしていくこと。

要諦はがむしゃらに作り続けていくということであり、そこに自己の全てを課していくことである。心身の状態を整えることは、創造活動に十分に打ち込むための不可欠なものとなった。

とにかく心身を常に最善のものにしていく。心身の状態を崩すようなことは一切しない。もう作るためだけに生きる。

昨日、作曲実践を終えた後に、「型」と呼ばれるものについて考えていた。その主題に向かわせたのは、一昨日から視聴を始めたゴッホの生涯に関するドキュメンタリーだった。

型を師から学ぶという発想を捨てようと思う。確かに今の私は、作曲に関して過去の偉大な作曲家に範を求めて曲を作っている。

しかし、彼らから型を学んでいるかというと、厳密にはそうではないように思えてきた。型すらも自分で作っているという明確な感覚が芽生え始めている。

型を他者から自己の内側に流し込んでいくのではなく、型そのものを内側から作っていく。そして、ひとたび構築された型を絶え間ない実践を通じて練磨していき、次々と刷新していく。

型は与えられるものではなかったのだ。型は自分で作るものだったのだ。

型を学ぼうとしていた自分は愚かだったのだ。型は学ぶものではなく、自らの手で作っていくものだったのだ。

仮に出来合いの型を習得しようと思っても、実はそれは自分の内側から作り直される形で習得されるものなのだ。型など存在せず、型は自分から作り出していくものだという気づき。これがどれだけ自分に対して光を投げかけてくれただろうか。

今日もこれからゴッホに関するドキュメンタリーの続きを視聴してから就寝する。明日の朝からまた作曲理論の学習を進め、曲を作っていく。そして書きに書くということを行う。

日々を生きるとは書くことであり、作ることである。日々は型と同じく、自ら創造していくものなのだ。フローニンゲン:2018/6/4(月)21:21 

No.1054: In the Starry Morning

I feel as if I can see an infinite number of starts falling in the morning. This morning makes me feel so. Groningen, 10:06, Sunday, 7/8/2018

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