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1026. SSGに関するワークショップを振り返って


再び日々の生活が落ち着いたものになりそうだ。数日前に開催されたワークショップについて少しばかり振り返っていた。

このワークショップは、私が現在の研究に適用している「状態空間グリッド(SSG)」という手法に関するものだ。この手法を開発したのは、マーク・レヴィスという発達心理学者だが、レヴィスに師事をしていたトム・ホルンシュタインがSSGを活用した研究を最も多く行っており、彼がこの手法の可能性をさらに押し広げたと言える。

フローニンゲン大学のメインキャンパス付近で開催されたこのワークショップに、ホルシュタイン教授がカナダから参加してくれたことは、私にとって幸運だった。実際に、ホルシュタイン教授と直接会って話をする機会を得ることができ、現在行っている自分の研究を通じて直面したSSGに関する理論的・方法論的な質問をホルンシュタイン教授に投げかけることができた。

SSGという手法を活用すれば、ダイナミックシステムの挙動や特徴を様々な観点から分析することができる。この手法の特に優れている点は、「再帰定量化解析(RQA)」や「トレンド除去変動解析(DFA)」などの非線形ダイナミクスの手法に比べて、視覚的に分析結果を解釈しやすく、また分析結果が持つ定性的な意味を汲み取りやすいということである。

ちょうどそのワークショップの初日の途中で、前の学期に受講した「複雑性とタレントディベロップメント」のコースを担当していたマライン・ヴァン・ダイク教授がプレゼンテーションを行い、最後に興味深いコメントを残していた。

ヴァン・ダイク教授がSSGに対して持っている考え方は私と似ているが、「複雑性とタレントディベロップメント」のコースを担当していたもう一人のラルフ・コックス教授は、SSGが非線形ダイナミクスの手法に比べて数学的に厳密ではない、という批判的な見解を持っているということであった。

ヴァン・ダイク教授とコックス教授はともに、人間の発達をダイナミックシステムとみなした研究に従事しているが、活用している手法が異なり、その裏には研究手法に対する思想が異なるという事情があるようだ。

二人は協働して一つのコースを提供しているがゆえに、決して対立をしているわけではないが、研究アプローチの相違があることは間違いない。昨日、「実証的教育学」のプログラムに入学するためのインタビューを受けたが、そこでもインタビューを担当した三人の教授が実証的教育学に対して持っている思想が異なっていることを見て取れた。

そこで思ったのは、こうした思想上の差異が抑圧されることなく表に出せることは非常に健全だということだった。同じ学科の中で、発達や教育に対する思想が異なり、発達研究や教育研究に対するアプローチが異なるのは当然のことであり、それが許容されていない方が不健全だと思うのだ。

フローニンゲン大学がダイナミックシステムアプローチを活用した発達研究において最先端であるゆえんは、思想的かつ方法論的な差異が確保されていることにあるのかもしれない。2017/5/5

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