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918.【ザルツブルグ訪問記】シナジェティクスの提唱者ハーマン・ハーケン教授との出会い


ザルツブルグで開催されている非線形ダイナミクスに関する学会の二日目が終了した。初日の学会後、主催者の厚意によって、学会の参加者は演奏会とディナーに招待された。

ディナーでの話が盛り上がり、ホテルに帰宅する時間が遅くなってしまった都合上、初日の学会を振り返る余裕が昨夜はなかった。記憶が残っているうちに、昨日の学会について書き留めておきたい。 初日の学会において最も印象的だったのは、最初の発表であった。私はこの学会に参加するまで気づかなかったのだが、最初のプレゼンターはなんと、シナジェティクスの提唱者の一人である理論物理学者のハーマン・ハーケン教授だった。

私が複雑性科学の領域を探究し始めて以降、何度かシナジェティクスという言葉に出会ってきており、またハーケン教授の名前も聞いたことがあった。まさか今回の学会でお目にかかることができるとは思ってもおらず、ハーマン教授が登壇された時には純粋に驚いた。

ハーマン教授は、現在90歳を迎えていながらも、依然として思考が明晰であり、発表の最中、終始一貫して私はハーマン教授の熟成された知性を感じていた。質疑応答を含め、一時間ほどの発表であったが、私は静かな感動に包まれていた。

絶え間ぬ探究を続けた知性というのは、このような特性を持つのだ、ということを改めて強く実感していた。ハーマン教授が発表を終え、休憩時間に入った時、私はハーマン教授に挨拶に行った。

私がハーマン教授に質問したことは二つあるが、あえてそれらをここで書き留めることはしない。ハーマン教授とのやりとりの内容が重要なのではなく、偉大な知性から私が感覚的に何を受け取ったのかということの方が遥かに重要である。

ハーマン教授から伝授されたのは、決して表面的な知識ではなく、知識を創出するためのエネルギーや探究者としてのあり方のようなものであったように思う。私は駆け出しの研究者に過ぎないが、そうした研究者にとって何よりも大切なのは、偉大な研究者から創造エネルギーのようなものを受け取り、それを自らの創造性に変容させていくことだと思う。

ハーマン教授と少しばかり雑談する幸運に恵まれ、ハーマン教授は学会のために何度か日本に訪れたことがあるとのことであり、優しい笑みを浮かべながら幾つかの日本語を話してくれた。ハーマン教授と日本との縁は学会のみならず、シナジェティクスに関するハーマン教授の何冊かの著作が日本語に翻訳されていることからもわかる。

ハーマン教授はドイツ人であるが、英語の原著が多数あるため、私にとっては非常に有り難い。オランダに戻ったら、自分の関心事項と合致している、 “Information and Self-Organization: A Macroscopic Approach to Complex Systems (2006)”をすぐに購入したいと思う。

ハーマン教授との出会いについては、うまく言葉にならない。この出会いが私にもたらした意味は、後々になって初めて分かるものなのだろう。

この世界において、人との出会いというのは何て不思議なことなのだろうか。2017/4/7

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