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483. 興味深き「フラクタル」


今日の午前中の仕事によって、ようやく研究データの翻訳作業が完了した。明日から少しずつ、この定性データに対してカート・フィッシャーのダイナミックスキル理論を適用することや、概念カテゴリーの分類を行っていきたいと思う。

翻訳した定性データをアドバイザーのクネン先生に送り、次回のミーティングでどのような概念カテゴリーの分類ができるかを議論する予定である。昼食前から夕方にかけて、来学期に履修予定の「複雑性と人間発達」というコースの課題論文に目を通し始めた。

クラスの開始は三週間後からだが、それまでの間に少なくとも一度は、全ての課題文献に目を通しておこうと思う。このコースの履修枠はわずか20名であり、ほとんどが研究に特化した修士プログラムの学生で占められている。

そのため、このコースは、自分たちの研究にダイナミックシステムアプローチを適用できるようなスキルを獲得することが目指されている。コースの概要を眺めてみると、毎回のクラスでは、コンピューターを用いた各種のシミレーション手法やモデリング手法などを扱い、研究ツールを使いこなせるようになることが目的とされているのがわかる。

私がフローニンゲン大学にやって来た意味は、まさにこのコースを受講するためである、と言っても過言ではないため、今から非常に楽しみである。そうした思いから、今日はまず、ダイナミックシステム理論の中で必ず取り扱われる「フラクタル」に関する論文を読んでいた。

フラクタルは「自己相似」とも呼ばれており、簡単に言ってしまえば、全体と部分の形が似ている現象を指す。例えば、自然界における木は自己相似の最たる例だろう。その他にも、雪の結晶や雲などもフラクタル構造を持っている。

自然界のみならず、私たちの身体にある血管などもフラクタル構造を持っている。フラクタルに関して、全体と部分が似ているという観点のみならず、統計学の観点から眺めてみるとさらに興味深いことがわかる。

ダイナミックシステム理論の関連論文を読んでいると、発達研究における統計学的手法がよく批判の対象に挙がっている。批判の根拠は、統計学は発達現象を平均化するアプローチを採用しているため、平均化することによって、特異な発達現象が蔑ろにされてしまっている、というものである。

もちろん、発達研究の中でデータを検証する際に、統計学的アプローチは不可欠である。ただし、その使い方を誤り、複雑な発達プロセスを平均に還元してしまうことには確かに問題がある。その点については、多くの批判が述べていることは正しいと思う。

しかし、今日読んでいた論文の中に記載されていたように、統計学という学問も常に進化を遂げており、それこそ有名な「t検定」「F検定」「ANOVA(分散分析)」などは100年前に提唱されたものであり、近年では複雑な現象を把握する特殊な統計アプローチも誕生しているのだ。

実際に、ハーバード大学教育大学院のジュディス・シンガーとジョン・ウィレットは “Applied longitudinal data analysis: Modeling change and event occrrence (2003)”という書籍の中で、複雑な発達現象に迫っていく幾つもの統計アプローチを紹介している。

この書籍を読んでみると、応用数学のダイナミックシステムアプローチのみならず、近年の統計学的アプローチを活用することによって、発達現象の複雑なプロセスに迫っていくことができると考えるようになった。それゆえに、発達現象の複雑なプロセスやメカニズムを解明する際に、一概に統計手法が役に立たないというわけではないのだ。

フラクタル構造を統計学的に眺めてみて何が面白いのかというと、そこにはサンプル平均と母集団平均が存在しないことだ。古典的な統計学であれば、「正規分布(normal distribution)」のように、必ず一つのサンプル平均と母集団平均が想定されている。しかし、これはフラクタルな現象には当てはまらないのだ。

つまり、フラクタルな現象においては、正規分布は決して “normal”ではないのだ。例えば、「ピータースバーグのパラドクス」というゲーム——コインの表が出れば2ドルが得られ、もし裏であれば表が出るまでコインを投げ続ける。n回目にコインが表になれば「2のn乗ドル」がもらえるというゲーム——が示すように、このゲームを続ければ続けるだけ、平均獲得金額が変化するのである。これはかなり面白い現象だと思う。

というのも、通常の統計学における正規分布が当てはまる現象では、試行回数が多ければ多いほど平均値は一つの値に収束していくと考えられているからである。ここではつまり、平均値が母集団平均に近づいていくと想定されているのだ。

しかし、フラクタル現象は母集団平均に近づいていくどころか、絶えず変化をしているのだ。この論文を読みながら、自分のデータがフラクタル現象を示すようなものである場合、「平均」という概念はほとんど役に立たないことがわかった。

対数関数を駆使すれば、フラクタル現象が持つ次元の数を含めて、様々なことが可視化されることに気づいたため、「複雑性と人間発達」というコースの第四回目のクラスで習うフラクタル分析の手法が今から楽しみである。

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