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410. 学習や実践に最適な「ノイズ」を生み出すために


昨日、先日の講義内容についてプログラム長のルート・ハータイ教授に色々と質問をしていた。ルートと私は年齢的には一つしか違わないのだが、彼は私の良きメンター役として、私の知らない領域や分野に関して様々なことを教えてくれる非常に頼れる研究者である。

ルートの研究論文の中で「三つの種類のノイズ」があることを以前に紹介したと思う。簡単に振り返っておくと、知性や能力を発揮する際に最も変動性が激しいのが「ホワイトノイズ」と呼ばれるものであり、最も変化に乏しいのが「ブラウンノイズ」と呼ばれるものであった。さらに、変動性が高すぎもせず低すぎもしない時に見られるのが「ピンクノイズ」と呼ばれる現象であった。

ルートの研究から明らかになったのは、一流のボート選手はパフォーマンスを発揮している最中に「ピンクノイズ」を生み出しており、ボート競技の初心者は「ホワイトノイズ」を生み出している、ということである。ルートの説明を元にすると、動的なシステムの挙動に関してピンクノイズは最も理想的な状態だと言える。

ここから私が考えたのは、動的なシステムの挙動に対してピンクノイズが最適な状態であれば、それはシステムの発達においても最適なのではないだろうか、という仮説である。そして、ピンクノイズが動的なシステムの発達に理想的な状態であれば、そのような波を持つノイズを作り出す(あるいは維持する)ような介入方法が支援の過程で重要になると思うのだ。

以前、「非線形教授法」について触れた時に、学習や実践の中にノイズを組み入れることの重要性を指摘したと思う。しかし、ここで注意しなければならないのは、どのような人にどのような種類のノイズを提供するか、ということである。具体的には、学習者や実践者の習熟度に応じて、どのようなノイズを学習に組み込むかを変えていく必要があると思うのである。

例えば、ルートの研究が示すように、ある領域における初心者が実践の過程で激しい変動性を発揮している場合には、その変動性を低減させるような介入方法が求められるだろう。その際には、例えば、非線形教授法とは逆に、基本的な反復練習のようなものが効果を発揮する可能性がある。

初心者がある領域で変動性の激しいパフォーマンスを発揮している主な理由は、基礎的な知識やスキルが脆弱であり、土台が確固としたものではないため、パフォーマンスが不規則に乱高下してしまうことにあるのではないだろうか。このような初学者にまず求められるのは、基本的な知識やスキルという土台をしっかりとしたものにするための実践である。

私たちは何か同じことを繰り返すことによって、ある種の型が身につくという経験をこれまで何度もしていると思う。このように、型を身につけるような反復練習は、初心者の知識基盤やスキルの土台を形作ることに役立ち、ノイズを低減させるような役割を果たすように思うのだ。

一方、実践者が何か伸び悩みを感じている時は、もしかしたら動的なシステムである実践者自身が安定期に入っており、その挙動はブラウンノイズを示している可能性がある。ブラウンノイズの状況下においては、波の変動性が乏しいため、変化に富む波を意図的に生じさせるような介入方法が望ましいかもしれない。

例えば、ある程度の反復練習を積んだ後に、今度は様々な状況を想定した実践を行ったり、複数の実践を組み合わせたりすることなどが有効だろう。ここで大切なのは、反復する知識項目やスキルの種類が同じであったとしても、その知識やスキルを違う角度から眺めることや用いることを促すことにある。

そうすることで、実践者が発揮する波に変動性が加わり、ピンクノイズの状態に近づいていくかもしれない。ただし、上記の内容は全て私の仮説であり、科学的にその効果が検証されているわけではない。実際に、ルートにほぼ同様の考えを伝えたところ、スポーツ科学の領域においてもまだそのような研究はなされおらず、これからルートたちが着手していきたいテーマであるということであった。

先行研究論文を一つほどルートから紹介してもらい、それを読むと、ウォーキング中にピンクノイズを生み出すためには、ピンクノイズの波形を持った音源を聴きながら歩くことが効果的である、ということがわかっている。ピンクノイズはそもそも、私たちの身体や脳が最適な状態にある時に発揮されやすく、もしかすると巷で流行のマインドフルネスメディテーションなどがピンクノイズに近い状態を心身にもたらすかもしれない。

もしそうであれば、常にマインドフルネスの状態で実践を行えば、パフォーマンスの波形をピンクノイズの状態に近づけていくことも可能かもしれない。ルートとのやり取りからそのようなことを考えさせられた。

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