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331.「システム思考」に関する世間の誤解


欧州小旅行からフローニンゲンに戻ってきて感じたのは、わずか二週間しか生活をしていないこの街が自分にとって安心感をもたらす場所になりつつあるということである。北欧に近いフローニンゲンの街は、夏の間は日が長いのが特徴だが、昨日は夜の九時ぐらいから徐々に暗くなり始め、欧州小旅行に出発した時よりも日が落ちるのが早くなっているのを感じた。

いよいよ夏も終わりに近づいている。そんな中、今日のフローニンゲンは夏らしく気温が高くて、日中は半袖で外出するのにふさわしかった。七月末に振込みを済ませたはずの授業料の振込みがまだ確認できていない、という問題を旅行前に抱えていたため、今日はその問題を解決しに学生支援課に向かった。

この問題については二十日前から解決の依頼をしていたにもかかわらず、結局今日という日まで未解決のままであった。この時期の欧州各国はどこも夏休み気分が蔓延しており、何かと動きが鈍いのだということを痛感させられた。

大学システムの動きも、社会システムの動きも随分日本や米国と違うのだなと思わされた中、ふと「システム思考」なるものについて考えを巡らせていた。というのも、「システム思考」と世間一般で呼ばれている思考形態について、長らく違和感を覚えていたからである。その違和感をあえて解消させることをせず、違和感のまま保持していたが、授業料の振込みに関する今回の一件が契機となって、その違和感が少し晴れることになった。

多くの人は、システム思考とは現象を一つのシステムとして捉え、システムを構成する要素間の関係性を把握することだと思っている傾向が強い。例えば、現象を生み出す要因が一体何であり——システムを動かす要因が何であり——、それらの関係性がどうなっているのかを考えることがシステム思考だと思っているのではないだろうか。

確かにそれらもシステム思考の一部ではあるが、構造的発達心理学の考え方では、システム思考とは自分の思考空間の中でシステム(理論体系など)そのものを構築する思考形態のことを言うのである。極言すると、現象を一つのシステムとして捉えることはシステム思考の要諦ではなく、自らの頭で概念的なシステムを構築できるかどうかが鍵を握るのである。

分かりやすいイメージで言うと、世間一般に思われているシステム思考とはシステムを「捉える(見る)」ことに重きが置かれがちであるために、傍観者的な思考方法だと言える。一方、構造的発達心理学で言うところのシステム思考とは、外界のシステムを捉えることだけではなく、むしろシステムを「構築する(作る)」ことに重点が置かれているために、創造者的な思考方法だと言える。

ロバート・キーガンの段階モデルとその他の認知的発達段階モデルを単純に比較することはできないが、幾つかの比較研究を眺めてみると、上記で言うところの真の意味でのシステム思考ができる段階というのは、キーガンのモデルで言うところの段階4以上に該当するのだ。

巷で叫ばれているシステム思考の特徴を見てみると、どうも軟弱な思考形態だという印象を拭うことができない。それもそのはずで、世間で声高に叫ばれているシステム思考というのは、システムを自らの頭で作り上げていくという創造者に課せられた屈強な思考を要求するものでは決してなく、システムを「見る」という傍観者に適したひ弱な思考しか要求していないからである。

そして驚くなかれ、元ハーバード大学教育大学院教授のカート・フィッシャーの実証研究の結果を見ると、ビジネスパーソンが「システム思考」と崇めている上記のような傍観者的な思考方法というのは、他者からの支援があれば、小学校高学年の子供にも扱える類の思考形態なのである。

私は成人の教育のみならず、子供の教育にも関心があるため、日本を離れる数ヶ月前にある大手の進学塾を訪問させていただき、教育カリキュラムを拝見する機会があったのだが、ビジネスパーソンがビジネス書やセミナーで躍起になって習得しようとしているシステム思考なるものを、その大手の進学塾に通う小学生は教師の支援のもとに適切な鍛錬を積んでいることに気づかされたのだ。

その大手の進学塾では、現象の要素間の関係を考えることや、部分のみならず現象全体を把握するような教材が用意されていたのである。その他の大手の進学塾はどうかわからないが、早期英才教育や既存の教育システムに対して否定的な意見を持つ私ですら、その塾で提供されていたカリキュラムは緻密であり、決して知識の詰め込みではなく、思考を育むための術理を体験を通じて学べるような仕組みが整っており、こうした塾も日本にはあるのだな、と好意的な意味で驚かされたのだ。

システムを自らの頭で築き上げていくという真の意味でのシステム思考を獲得する認知段階や、その次に待つ「メタシステム段階」までは才能などに関係なく、教育やトレーニングによって十分に体得可能なものである。

そのため、傍観者的な似非システム思考から一刻も早く脱却し、自分の頭でシステムを作り上げていくという実践を開始した方がいいのではないだろうか。2016/8/24

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