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144. 発達段階3(慣習的段階)から発達段階4(自律的段階)への移行支援について


最近、私の専門領域を問われる機会が多いので、ここでもう一度確認させていただきますと、私は成人以降の知性発達に関する学術研究(知性発達測定や測定手法の開発など)と学術理論を基にした臨床実践(企業組織向けの発達支援コーチングやメンタリング)に従事しています。

直近の半年間においては、研究機関から離れていたため、純粋に学術研究に従事していたわけではありません。しかし、有り難いことに、日本を代表する人事測定サービス提供会社と共同して、ビジネス社会で働く人たちの知性発達に特化したアセスメントの開発に着手し始めました。ようやく本業回帰というところでしょうか。

人間力や実務能力の成長・発達を学術的に探究する一方で、臨床的な実践にも従事しています。特に、成人以降の知性発達理論・意識発達理論を基にしたコーチングサービスを中核としています。

今回の記事は、多くの日本企業が抱えているであろう自律人材育成という課題に対して、自律的段階へ至るために必要なことを発達理論の観点から幾つか紹介したいと思います。

ハーバード大学教育大学院教授ロバート・キーガンの知性発達理論に基づくと、依頼を受ける大抵の人材育成プロジェクトの根幹には「発達段階3から発達段階4への移行支援」があります。つまり、組織に従属し、自律的な自己決定ができない段階から自らの自己決定基準に基づいて業務を推進できるような人材への成長が課題になっています。

多くの組織にとっては、それが喫緊の課題でありながらも、臨床実践に従事している立場からすると、そうした課題の解決は容易ではありません。特に、成人人口の約70%が発達段階3付近にいることが何を意味するかというと、社会全体が私たちを段階3の行動論理に縛り付ける引力装置として機能しているということです。

広義においては社会全体と言えるでしょうが、狭義には、多くの組織が無意識的に私たちを発達段階3の行動論理に縛り付けていると言えます。そのため、段階4へ移行するために必要なのは、精神分析学の大家ロロ・メイが指摘するように、社会(組織)によって定義された既存の行動論理を乗り越えていく必要があるのです。

言い換えると、新しい独自の価値体系を構築するためには(段階4に到達するためには)、社会(組織)が作り上げた既存の価値体系と多かれ少なかれ格闘しなければならないということです。こうした格闘を避けてしまう場合、段階4への移行は実に達成し難いです。それゆえに、このような内面的な格闘の支援を行うのが発達支援コーチングの一つの重要な役割だと言えます。

さらに、「探究的な問いを自らに投げかけられるようになることが、真の意味での自己構築の始まりなのである」というロロ・メイの言葉は、真の意味で自律的な自己を確立するために必須の要素を言い当てています。

別の表現をすると、社会や組織の声に盲目的に従うのではなく、内発的な問いを自ら発せられるようになることが自律的な自己(段階4)を確立することに不可欠なのです。

臨床実践において、自分が何をしているかを振り返ると、コーチング・セッションを通じてクライアントが探究的な問いを自らに投げかけられるように支援をしてあげることは、コーチとしての役割において外せない点であると思います。ロロ・メイの著作を読みながら上記のようなことを思い、備忘録としてまとめた次第です。

【追記:「発達の原理」主体から客体への対象変容】

発達支援コーチングにおいて、一つ重要な原理が存在し、これは発達法則という言葉に置き換えることが可能です。それは何かというと、「ある段階から次の段階へ移行する際に、主体であったものが客体になる」という原則です。

これはまさに、ロバート・キーガンが提唱した「主体客体理論」から抽出された発達原理であり、私たちはある段階にいる時はその段階を主体として生きます。つまり、その段階を客体化することができず、その段階に埋め込まれた段階であると言えます。

より具体的には、慣習的段階(段階3)にいる場合、段階3の自分を客体化させることができないため、自分が段階3の行動論理に縛られているなど微塵にも思っていないのです。

ここから帰結させる発達支援の要諦は、主体であったものを客体へ変容させることにあります。そのため、発達支援コーチングのセッションにおいて重要なのは、対話を通じて、主体を客体に変容させるための気づきをクライアントに与えられるかどうかであると言えます。

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