top of page

【フローニンゲンからの便り】17359-17364:2025年9月8日(月)


ree

⭐️心の成長について一緒に学び、心の成長の実現に向かって一緒に実践していくコミュニティ「オンライン加藤ゼミナール」も毎週土曜日に開講しております。


タイトル一覧

17359

ブラックホール・宇宙論・時間の性質

17360

今朝方の夢

17361

今朝方の夢の振り返り

17362

弦理論とループ量子重力の対比

17363

フォルカー・ショーメルスの『A Primer on String Theory』

17364

積み重ねの土台の上に/フォルカー・ショーメルスの書籍の整理

17359. ブラックホール・宇宙論・時間の性質   

         

時刻は間もなく午前6時半を迎えようとしているが、ようやく遠くの空が明るくなり始めた。9月を迎えて日の出が随分と遅くなっている。今日の最高気温は22度に到達するが、もう明日からは20度を超えることはなく、来週に至っては16度までしか気温が上がらない日が出てくる。それを見るにつけ、秋の入り口を通り越して、秋が深まるフェーズに入ってきていることを実感する。


昨日言及したロヴェッリとヴィドットの『Covariant Loop Quantum Gravity』という書籍は、抽象的な理論基盤を整える書であると同時に、その応用可能性についても随所で示唆している。改めて、「ブラックホール」「宇宙論」「時間の性質」という3つの観点に分けて本書の内容を整理しておきたい。ループ量子重力は、ブラックホールの「エントロピー問題」に新しい光を当てている。古典的一般相対論においては、ブラックホールの事象の地平面積がエントロピーと比例すること(ベッケンシュタイン–ホーキングの関係)が知られている。ループ量子重力のスピンネットワークでは、面積はSU(2)表現に基づき量子化されているため、地平面を切り取る「スピン」の組み合わせがブラックホールの微視的状態数を与える。この計算から導かれるエントロピーは、ホーキングの結果と一致する形で現れる。特にスピンフォームの共変的定式化は、このエントロピー計算を経路積分的に支える数学的基盤を提供している。さらに、ブラックホール内部の特異点が量子効果によって「反跳」し、白色穴的構造へと移行する可能性も議論されている。これは、情報消失問題やブラックホール蒸発の終末状態に対して新しい視座を与える。ループ量子宇宙論(Loop Quantum Cosmology, LQC)は、本書の理論枠組みの具体的応用の1つである。従来の宇宙論ではビッグバン特異点が不可避とされてきたが、ループ量子重力では体積演算子のスペクトルが離散化されるため、特異点は「量子反跳」によって回避される。すなわち、宇宙は無限の密度へ崩壊するのではなく、最小スケールで反発し、新たな膨張へと転じるというシナリオが導かれる。これにより、宇宙の始まりを「時間の絶対的起点」とする見方が修正され、無限に続く収縮と膨張のサイクルが考えられるようになる。共変的定式化の枠組みは、この宇宙的スケールでの量子遷移を厳密に扱う基盤を提供しており、ビッグバンの量子論的解釈に強い理論的裏付けを与えている。ループ量子重力において最も哲学的に深いのは「時間の再定義」である。共変的定式化では、背景時空が与えられないため、絶対的な「時刻」は存在しない。代わりに、物理的過程の相互関係こそが時間を構成するという「関係的時間観」が浮かび上がる。スピンフォームは、時空の点における「出来事」そのものを積み重ねており、その因果的構造から時間の矢が浮かび上がる。この観点では、時間は宇宙の基本的成分ではなく、量子幾何の大規模な挙動から出現する「派生的性質」とみなされる。ロヴェッリ自身の別著『The Order of Time』とも響き合うが、本書ではその数学的基盤が展開されている。これは物理学と哲学を架橋する重要な論点であり、時間の流れを「主観的実感」と「物理的構造」の接点で捉え直す試みと言えるだろう。このように『Covariant Loop Quantum Gravity』は単に理論的な数式体系に留まらず、ブラックホールの微視的構造、宇宙の始まりと終わり、そして時間そのものの再定義といった根源的問題に具体的な洞察を与えている。これらの応用は、量子重力が単なる抽象的試みにとどまらず、観測的・実験的検証に接続する可能性を秘めていることを示唆している。ブラックホールの蒸発や宇宙背景放射に刻まれた痕跡を通して、この理論が将来実証され得る道筋も見えつつある。すなわち、本書の意義は、数理的精緻さと物理的直観を結びつけ、時空そのものを量子化するという試みを応用的観点からも確固たる地平に据えた点にあるのである。フローニンゲン:2025/9/8(月)06:35


17360. 今朝方の夢

  

今朝方は夢の中で、ある有名な教育系ユーチューバーの方の超ひも理論の講義を教室で受けていた。どうやら私たちは知り合いのようで、親しくしていることもあり、教室では活発に意見交換をした。その方の講義は見事で、とても分かりやすく、超ひも理論に必要な数学の知識の基礎を固めることができた。すると、その方の師匠に当たる大学教授の授業を受ける機会に恵まれ、早速その教授の授業を別の教室で受けることになった。その教授は初老を迎えているが、頭は冴え渡っており、その場にいた大学院生たちにも理解できない超ひも理論に必要な数学的知識を教えてくれ始めた。しかし、出題される問題が自分にとっては手がつけられないほどに難しく、白紙のノートを前にして固まっている状態が続いた。ところがその教授はとても優しい人でもあったので、生徒に無理をさせず、適宜ヒントを出しながら問題に取り組ませた。その教授の授業を受けて、自分がまだまだであることを実感し、ここから学習に励んでいこうと思った次第である。


次の場面では、高校時代のサッカー部の副キャプテンの友人と揉めている場面があったのを覚えている。突然彼が自分のプレースタイルを批判してきて、最初は冷静に彼の批判を聞いていたが、プレースタイルから人格否定に移った時に自分の態度は一変した。その転換が起こった瞬間に、自分にも何かスイッチが入ったようで、彼の脛を折るかのような蹴りを喰らわせ、彼が地面に倒れたら、顔や足を何度も踏みつけた。その際に、金輪際自分に逆らうような言動はするなと強く言い聞かせた。彼はもう意識を失いかけていたが、自分の命令を理解したようだった。


最後に覚えているのは、新しい国立競技場のお披露目となるサッカー日本代表の親善試合をスタジアムで観戦している場面である。スタジアムの上の方の席をなんとか確保し、満員で盛り上がるスタジアムの熱気を味わっていた。選手が入場し、国歌斉唱が始まると、新しいスタジアムの音響効果なのか、君が代が何層にも渡って響いていく光景は感動ものであった。国歌斉唱が終わり、拍手が起き、そこからキックオフは間近だったが、最後にトイレに行っておこうと思ってトイレに行くと、中に入ったすぐの箇所でインタビューを受けることになった。試合開始まで時間がなかったので、用を足しながらインタビューに答えさせてもらうことにし、どこから来たのかと尋ねられたので、「オランダのフローニンゲンから来ました」と伝えると、マイクの音声はスタジアムに届けられるようになっていたらしく、スタジアムが沸いているのを感じた。フローニンゲン:2025/9/8(月)06:49


17361. 今朝方の夢の振り返り


今朝方の夢の三部構成は、知的探究、内面の葛藤、そして社会的承認という3つの次元を連ねる物語として読むことができるだろう。第一幕で描かれる教育系ユーチューバーとその方の師匠の教授の授業は、知識の階梯を登る象徴である。ユーチューバーの講義は現代的で親しみやすく、自分の理解を基礎から支える存在として現れる。それは自己の現在の力に見合った導き手を意味している。一方で、師匠の教授の授業は、さらに高次の知を司る存在であり、理解を超える難題を突き付ける。白紙のノートに固まる自分の姿は、未熟さの自覚と、今まさに未知の高みに挑もうとする精神的境界を象徴している。ここには、知の追求において自己が必ず直面する「できない」という断崖が描かれており、それを優しく導く教授の姿は、外界における師であると同時に、内なる理性や未来の自己の象徴でもある。第二幕では一転して、サッカー部時代の副キャプテンとの暴力的な場面が展開される。これは知の世界での謙虚さとは対照的に、自己の内面に潜む攻撃性や承認欲求が噴出する場面である。最初は批判を冷静に受け止めていたが、人格否定に至った瞬間に理性の抑制が外れ、激しい暴力に訴える。ここには二重の象徴がある。1つは、自分が他者からの否定や批判に対していまだ過剰に反応してしまう「影の自己」の姿であり、もう1つは、それでもなお自らの尊厳を守ろうとする強烈な防衛本能である。副キャプテンという役割が示すように、彼は自己にとってライバルであり同時に内なる規律や抑圧の象徴でもある。彼を力でねじ伏せる夢の展開は、表面上は勝利であっても、実際には内なる葛藤の深さを浮き彫りにしている。第三幕は社会的舞台での自己の登場を示す。新しい国立競技場という巨大な空間は、人生の次なる章での公的舞台を象徴する。満員の観衆、国歌の荘厳な響きは、個人を超えた集合意識への参加を意味し、個人が大きな共同体に繋がる感覚を表す。その中で、自分がフローニンゲンから来たことを告げ、スタジアム全体がそれに反応する場面は、国境を越えて自己の存在が認められる瞬間を示している。しかもその発表がトイレという日常的かつ身体的な場で行われたという逆説性は、重大な承認や評価が必ずしも格式ばった場から生まれるのではなく、むしろ等身大の人間的な場面から広がることを暗示している。この三幕の連関を総合すると、夢は「学ぶ者としての自己」「葛藤する者としての自己」「共同体に受け入れられる者としての自己」という三重のプロセスを示している。第一幕の学びは未来への挑戦を、第二幕の暴力は過去の影との対峙を、第三幕のスタジアムは現在の社会的承認を象徴しているのである。すなわち、この夢全体は「未熟さを認めながら学びを深め、内なる影と向き合い、最終的に社会的舞台で自分の声を響かせる」という人生の発達的過程を描いている。人生における意味としては、この夢は「謙虚さと情熱をもって学び続け、自らの影を正直に見つめ、それを超えて共同体に自分の声を届けよ」というメッセージを示しているのだろう。フローニンゲン:2025/9/8(月)07:09


17362. 弦理論とループ量子重力の対比

     

朝のIELTS対策としての一環としてのスピーキングとライティングの鍛錬おおえて、「ブラックホール」「宇宙論」「時間の性質」という3つの応用について、弦理論とループ量子重力(特にロヴェッリとヴィドットの共変的定式化)の対比について考えていた。弦理論では、ブラックホールのエントロピーは「Dブレーン」と呼ばれる弦の終点に対応する多様体の状態数によって説明される。特に極値ブラックホールについては、この微視的計算がホーキングの公式と一致することが示され、大きな成功を収めている。しかし、その結果は超対称性を強く仮定した特殊な状況に依存するため、一般的なブラックホールにどこまで適用できるかは依然として課題である。ループ量子重力では、ブラックホール地平面を貫くスピンネットワークの「穿孔(せんこう)」が微視的自由度を与えると解釈し、エントロピーを数え上げる。こちらは超対称性を仮定せず、一般的なブラックホールに広く適用可能である。ただし、比例係数を完全に一致させるには「イメルジパラメータ」と呼ばれる自由定数の調整が必要になる。この点でループ重力はより背景独立的である一方、弦理論はより統一的だが制約の強い説明を与えていると言える。弦理論は「インフレーション理論」と結びつきやすく、膨大な真空解の集合(ランドスケープ)から、初期条件や宇宙定数問題を説明しようとする。特に「ブレーン宇宙」シナリオや「多元宇宙」の議論では、弦理論の高次元性が活かされている。だが、具体的に私たちの宇宙を一意に選び出す決定力に欠ける。ループ量子重力は、初期特異点を「量子反跳」で回避する点に独自性を持つ。宇宙は無限密度で停止するのではなく、収縮から膨張へと移行する。この描像は「時間に始まりがない」可能性を示唆する。共変的ループ量子重力の枠組みは、この遷移を厳密に扱う計算基盤を提供し、観測的には宇宙背景放射に痕跡を残す可能性が指摘されている。対して弦理論は、多次元真空の多様性を強調するが、特異点回避の明確な機構は依然未確定であるとのことである。弦理論では、時間は基本的に「背景」として与えられる。すなわち、弦は事前に存在する時空上を振動する存在であり、時間の役割は初期条件や対称性の枠組みの中で扱われる。AdS/CFT対応などでは時間の「双対的記述」が現れるが、それは背景の選び方に依存するため、時間の出現を根源的に説明するものではない。ループ量子重力は、背景独立性を徹底するため、固定的な時間変数を用いない。スピンフォームにおける出来事の連鎖や相関関係から、時間が派生的に立ち現れるとする。この「関係的時間」の概念は、時間を基礎的存在とする弦理論の枠組みと大きく異なり、哲学的にも独自性を放つ。まとめると、弦理論は「統一的フレームワーク」に強みを持ち、重力だけでなくゲージ相互作用も含む広範な統合理論を目指す。そのためブラックホールや宇宙論の一部で深い洞察を与えるが、背景依存性や多数の真空解の問題を抱えている。一方、ループ量子重力は「背景独立性」と「量子幾何の離散性」を徹底することで、ブラックホールの一般的描像や宇宙の特異点回避、時間の派生的性質といった独自の成果を挙げている。ただし、他の力を統合する視点には弱く、適用範囲は重力に特化している。したがって、弦理論とループ量子重力は、ブラックホール、宇宙論、時間の本質といった応用的局面においても、「統合性と背景依存性」を選ぶか、「重力特化と背景独立性」を選ぶかという対照的な特徴を示しているのである。フローニンゲン:2025/9/8(月)09:02


17363. フォルカー・ショーメルスの『A Primer on String Theory』 

     

今日は午前中に書籍の原稿の加筆修正とオンラインでの投稿記事の修正を行なった。今日はIELTSの模擬試験を解くことはせず、1日休息日を設けることによって、明日また問題を解くことを楽しみにしたい。


フォルカー・ショーメルス(Volker Schomerus)の『A Primer on String Theory』は、弦理論を学ぶ初学者に向けて書かれた入門的かつ体系的な教科書であり、複雑で抽象的な弦理論の枠組みを「物理的直観」と「数理的基盤」の双方から整理して提示している点に特色がある。一般に弦理論は、量子重力を含む統一理論の最有力候補の1つと目されるが、その学習は高い専門性を必要とし、量子場理論や一般相対性理論に加え、群論や多様体といった高度な数学の素養を要する。本書はそのような背景を前提としつつも、読者が理論の主要なアイデアに早期に触れられるよう配慮された構成を持っている。まずショーメルスは、点粒子を基本単位とする量子場理論から、一次元的に広がった「弦」へと基礎的対象を拡張する必然性を解説する。点粒子を超える次元を持つ弦を考えることで、量子重力の発散問題が自然に回避され、時空の一貫性が保たれることが示される。弦の運動は二次元世界面(ワールドシート)の理論として定式化され、そこでの共形対称性が物理的整合性の中核を成す。本書では、この「ワールドシート共形場理論」の考え方が丁寧に展開され、弦理論を理解する上で不可欠な数理的枠組みとして読者に提示される。続いて、本書は開弦と閉弦という2つの基本的な弦の種類を扱い、両者がゲージ粒子や重力子といった既知の素粒子にどのように対応するかを明らかにする。特に閉弦の振動モードから質量ゼロのスピン2粒子、すなわち重力子が必然的に現れることは、弦理論が量子重力を含む統一理論であることの最も重要な証左として強調されている。また、開弦の端点に自然に現れる「Dブレーン」の概念も紹介され、現代弦理論における非摂動的構造の端緒として位置づけられている。本書のもう1つの焦点は「超対称性」と「超弦理論」の必然性である。ボソニック弦だけでは物理的に不安定なタキオンが生じるが、フェルミオンを組み込んだ超弦理論に拡張することで、この問題は解消され、10次元時空における一貫した理論が成立する。ショーメルスは、この超対称性の導入が単なる数学的技巧ではなく、弦理論の内部から自然に要請されることを明快に示している。さらに本書は、弦理論の5つの主要な定式化(タイプ I、タイプ IIA、タイプ IIB、ヘテロ弦 SO(32)、ヘテロ弦 E8×E8)を概観し、それらが「デュアリティ」と呼ばれる深い対応関係によって相互に結びついていることを解説する。この統一的視点から、従来は別々に見えていた理論が、より高次元的枠組みで統合されるという洞察が浮かび上がる。特に11次元のM理論への言及は、弦理論のさらなる展開を示唆するものとして紹介されている。また、ショーメルスは弦理論の「物理的意味」を強調する。すなわち、弦理論は単なる数学的遊戯ではなく、ブラックホールのエントロピー計算やAdS/CFT対応といった具体的応用において顕著な成果を挙げている点が強調される。ブラックホールの微視的状態数をDブレーンの組み合わせとして数え上げられること、ゲージ理論と重力理論の双対性が新たな物理の窓を開いたことなどは、本書でも重要な例として扱われている。総じて、『A Primer on String Theory』は弦理論の多層的な構造を初学者にもアクセス可能な形で体系化した優れた入門書である。点粒子から弦への拡張、共形場理論の役割、重力子の必然的出現、超対称性による理論の安定化、デュアリティとM理論への統合的展望、さらに物理的応用例に至るまでを一貫して示し、弦理論が単なる数理モデルではなく「量子重力を含む統一理論」として現代物理学において持つ意味を明確に伝えている。したがって本書は、弦理論に初めて触れる大学院生や研究者にとって、理論の全体像を把握し深く学ぶための格好の出発点となるだろう。フローニンゲン:2025/9/8(月)11:51


17364. 積み重ねの土台の上に/フォルカー・ショーメルスの書籍の整理 

     

この人生で何度も失敗を重ねてきたことが、うまくいかなかったことを積み重ねてきたことが、自分の歩みの土台となっており、それらの堆積が自分をさらなる高みへと押し上げてくれている。これからも失敗やうまくいかないことを積み重ねていくことによって、今後の人生の眺望は広く高いものになっていくだろう。


静かな夕方の世界が目の前に広がっている。やはりすっかりと秋になったようで、ノーダープラントソン公園の木々の中に紅葉を始めているものがあった。もう落ち葉になっているものもあったぐらいである。今日も午後にジムに行き、じんわりとした汗をかいた。20度を超えるのは今日が最後かも知れず、今後はジムではあまり汗をかかなくなるだろう。

フォルカー・ショーメルスの『A Primer on String Theory 』を、「数学的基盤」「物理的予言」「哲学的含意」という3つの観点から整理し直してみたい。ショーメルスの本の特徴は、弦理論を「二次元共形場理論」として理解させる点にある。弦は時空を運動するのではなく、一次元の曲線が広がる世界面(ワールドシート)を形成し、その上での場の理論が弦のダイナミクスを決定する。ここで鍵となるのが「共形対称性」である。これは局所的なスケール変換に対する不変性であり、弦理論の整合性を保証する。実際、共形異常の消失条件を満たすことによって、時空の次元が10次元に制約される。このように、弦理論は物理的要請から高次元時空を導き出す。また、代数的手法としての群論や表現論も重要である。開弦や閉弦の振動モードは無限次元のリー代数に従い、特定のスペクトルを持つ。Dブレーンの登場により、ゲージ群や非可換幾何の数学が自然に組み込まれ、現代数学との交差が広がる。ショーメルスはこのような数学的背景を、必要以上に抽象化せず、直観と結びつけて紹介している点が特色である。弦理論の大きな魅力は、物理学の既知の構造を必然的に含むことである。まず、閉弦の振動モードから質量ゼロのスピン2粒子、すなわち重力子が出現し、量子重力が理論に組み込まれる。この点は弦理論が単なる拡張ではなく「統一理論」の候補であることを示している。さらに、開弦の端点はDブレーン上に拘束されるため、そこからゲージ場が自然に生まれる。これは標準模型に含まれるゲージ相互作用とつながる可能性を秘めている。また、弦理論はブラックホールの微視的状態数を計算し、ベッケンシュタイン–ホーキングのエントロピー公式を再現する。この成果は、量子重力の直接的証拠とされる重要な予言である。加えて、AdS/CFT対応はゲージ理論と重力理論の双対性を示し、素粒子物理を超えて凝縮系物理や情報理論への応用にも広がっている。ショーメルスはこれらの物理的帰結を初学者にも理解できるように描き出しており、弦理論が現代物理における「実りある研究領域」であることを印象づけている。弦理論は単なる技術的理論にとどまらず、時空や物理法則の本質に深い哲学的問いを投げかけている。まず、私たちの三次元空間に加えて6次元の「余剰次元」を仮定することは、観測可能な現実を超えた多層的宇宙像を提示する。この余剰次元はコンパクト化されているが、その形状が素粒子の性質を決めるため、物理法則が幾何学的構造に依存するという新しい視点が示される。また、5種類の弦理論が相互にデュアリティで結ばれているという事実は、唯一の「絶対的理論」が存在するという古典的な実在観を揺るがす。むしろ複数の理論が異なる視点から同一の現実を記述しているという、多元的かつ関係的な世界観が浮かび上がる。これは「理論の真理性とは何か」という科学哲学的問題に新たな含意をもたらすだろう。さらに、M理論の登場は「究極理論」という概念の可塑性を示している。つまり、物理学は固定的な完成形を持つのではなく、より広い枠組みへと開かれ続ける動的な探究であるという理解である。ショーメルスはこうした哲学的視座を直接的には強調しないが、数学的基盤と物理的予言を丁寧に解きほぐす中で、読者に自然とその含意を考えさせる構成となっている。このように『A Primer on String Theory』は、数学的基盤を通じて理論の整合性を示し、物理的予言によってその可能性を実証し、さらに哲学的含意を暗示することで、弦理論が現代物理学における学問的・思想的挑戦であることを明らかにしている。すなわち本書は、弦理論を単なる専門技術の集積ではなく、時空と現実の理解そのものを問い直す「現代の自然哲学」として提示しているのである。フローニンゲン:2025/9/8(月)16:39


Today’s Letter

My creativity and imagination always spark to life and flow naturally. All I have to do is immerse myself in that flow, which is the key to boundless well-being. Groningen, 09/08/2025

 
 
 

コメント


bottom of page