【フローニンゲンからの便り】17352-17352:2025年9月7日(日)
- yoheikatowwp
- 9月9日
- 読了時間: 21分

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タイトル一覧
17352 | IELTSの模擬試験との向き合い方 |
17353 | 今朝方の夢 |
17354 | 今朝方の夢の振り返り |
17355 | IELTSのリスニングの最初の模擬試験を解き終えて |
17356 | ルース・カストナーの『Adventures in Quantumland』 |
17357 | ジャンカルロ・ギラルディ『Sneaking a Look at God’s Cards』 |
17358 | カルロ・ロヴェッリとフランチェスカ・ヴィドットの著作『Covariant Loop Quantum Gravity』 |
17352. IELTSの模擬試験との向き合い方
時刻はちょうど午前7時を迎えた。日曜日の穏やかな朝の世界が広がっている。今日も起床直後に温かいシャワーの後に冷水シャワーを浴びてシャキッとしており、体が芯から温かくなっている。これから秋が深まり、冬になってもこれはぜひとも毎日継続したい習慣である。昨日からIELTSの試験の本番までちょうど2週間となったので、今日から模擬試験の問題を本番と同じ状況で解いていくことにした。これまでもすでにスピーキングに関しては模擬試験を毎日2セット、ChatGPTのVoice Chat機能を通じて問題を解いており、ライティングに関してもパート1かパート2の問題は必ず毎日1題解いていた。リスニングとリーディングに関しては、問題の種類ごとに毎日何かしらの問題を解いていたが、今日からはそれぞれのセクションを本番と同じ時間で解いていく。IELTS本番まで残り2週間という段階で模擬試験を解く際には、単なる練習問題の繰り返しではなく、本番に即した環境設定と自己分析を徹底することが最も効果的だろう。まず重要なのは「本番と同じ条件」で取り組むことである。すなわち、リスニングでは必ず一度しか音声を流さず、巻き戻しや再生を禁止する。リーディングは60分で3パッセージを解き切る時間管理を守り、ライティングはTask1に20分、Task2に40分という配分を崩さない。スピーキングについても可能なら録音し、11~14分という制限時間内で即興的に話し続ける訓練を行う。こうした制約を課すことで「模擬試験を練習ではなくシミュレーションとして使う」ことが可能となり、本番に近い集中力と緊張感を養えるはずである。幸いにもライティングに関してはすでに時間を測って制限時間内に文章を書き終え、見直しの時間まで確保できるような状態になっている。スピーキングにおいても毎日2セットを即興的に話すことを通じて鍛錬してきたので、ここからの2週間はそれをさらにブラッシュアップさせていく。次に大切なのは「結果の分析」である。多くの受験者は模試を解いてスコアを確認するだけで満足してしまうが、真の学習効果は誤答の原因分析にある。リーディングであれば、パラフレーズを見抜けなかったのか、スキャニングに時間をかけすぎたのか、あるいは設問形式(True/False/Not Givenなど)への慣れが不足していたのかを丁寧に分類する。リスニングでは、固有名詞・数字・つづりの聞き取りミスか、それとも設問先読みの不十分さによる理解不足かを見極める。ライティングでは、時間切れによる未完成、構成の不明瞭さ、あるいはタスクレスポンスの不足といった問題をChatGPTからのフィードバックを通じて浮き彫りにする。スピーキングの場合は、自分の録音を聞き直し、「言葉が詰まった瞬間」「単語が繰り返された箇所」「論理展開が飛んだ部分」を特定し、改善策を具体的に立てることが重要である。また、2週間という限られた時間を考えると「模試を大量に解くこと」よりも「解いた模試を深く掘り下げること」が効果的である。一度解いた模試を時間無制限でやり直し、全問正答できるかを確認することや、ライティングでは同じ題材で異なる構成や語彙を試し、スピーキングでは同じトピックに対して複数の言い回しを練習することで「引き出しの多さ」を増やすことができる。こうして模試を「問題集」ではなく「素材」として使い倒すことで、短期間でも実力の底上げにつながるだろう。注意点としては、模試のスコアを本番の得点予測と混同しないことである。市販の模試や公式模試は本番と形式は似ているものの、実際の試験では緊張や環境の違いによって得点が上下する。また模試の点数に一喜一憂すると心理的負担が増し、かえって効率が下がることがある。したがって「スコアの確認は参考程度にとどめ、学習の目的は常に弱点補強である」と意識することが望ましい。さらに、連日模試を解き続けると疲労が蓄積し、集中力が低下して本番直前に燃え尽きてしまう危険もある。理想的には2日に1回程度のペースで模試を解き、残りの日は誤答分析や語彙・文法の補強に充てるのがよいだろう。まさにそのようなスケジュール感を汲んでおり、1週間に3セットの模擬試験を解き、本番前の最後の模擬試験は2日前にして、本番の日を迎えた段階で問題に飢えた状態にしておくつもりである。最後に、模試は「練習の場」であると同時に「本番へのリハーサル」でもある。時間感覚、集中力、体力、メンタルの持久力を鍛える機会と考え、自分なりにルーティンを確立することが本番の安心感につながる。例えば、開始前に軽いストレッチや深呼吸を行う、リーディングの順番を固定する、ライティングで導入文のテンプレートを決めておく、といった習慣を模試の段階から取り入れておくと、試験当日に迷いなく行動できる。本番直前に新しい方法を試すのではなく、模試で確立したやり方をそのまま再現できることが成功の鍵となる。要するに、模擬試験は点数を測る道具ではなく、弱点を明らかにし改善策を積み上げるための鏡である。残り2週間という限られた時間だからこそ、数より質、結果より分析、本番に近い環境づくりを徹底することが最大の効果を生むのである。個人的には、リーディングにせよ、リスニングにせよ、どの問題も1点であることには変わりないので、少し悩む問題があったら、暫定的な答えを書いておいて印を付け、次の問題に速やかに移動することをで時間を浪費しないようにしたい。これは2年前の試験の時にもとりわけ気をつけていたことだ。フローニンゲン:2025/9/7(日)07:13
17353. 今朝方の夢
今朝方は夢の中で、小中学校時代のある女性友達(AS)から相談事を受けていた。どうやら彼女は陰湿ではないが、軽いいじめを受けているようで、そのことを打ち明けてくれた。自分として何かできることがあるような気がしたので、早速こちらかも手を打ってみるということを彼女に伝えると、彼女は安堵の笑みを浮かべた。すると、自分は実際に通っていた小学校と中学校の体育館が混じったような体育館の中にいた。身長順に並んでいると、前後の友人と並び方が変わった。これまで自分よりも前にいた友人(KM)が後ろになり、逆に後ろにいた友人(HS)が自分の前になった。お互いの最近の身長の伸び具合について3人で話し合っていると、後ろになった友人が突然流暢な英語を話し始めたので驚いた。どうやら彼の奥さんはイギリス人とのことで、奥さんと会話を継続していたら驚くほど英語が上達したようだった。彼の英語は本当にネイティブ並みだったので自分は驚きを隠せなかった。
次に覚えている場面は、小中学校時代のある親友(YU)と一緒に黄金を掘り当て、それを持ち帰るアドベンチャーをしている場面である。大きな川が流れる付近で私たちは黄金を発見し、それを持ち帰ろうとすると、同じく黄金を目当てにやって来た盗賊団のような人たちが目には見えない形でこちらに迫って来ているのを感じた。彼らはまるで透明人間であるかのように、すでに近くまでやって来た時にこちらに向かって声を上げて威嚇してきた。私たちはそれを受けて、黄金をそれぞれ持って川に飛び込んで逃げることにした。その川は激流で、すぐさまものすごい勢いで私たちは川を下っていった。激流の川に流されるのではなく、うまく私たちは川を泳ぐことができた。実際には、追っ手の盗賊団から攻撃を受けないように、川に潜水する形で川を下っていったのである。滝のような箇所を落ち、継続して川の中を泳いでいると、川の中の目の前にオランダの色とりどりのお洒落な家が見えてきた。どうやらオランダの街は浸水しているようで、私たちはそれらの家を眺めながら川を引き続き泳いだ。晴れ渡る太陽のおかげと川の水の透明度のおかげで視界は良好だったので、もう盗賊が追ってこないとわかってからは川を泳ぐのはとても快感だった。川から上がると、私たちの手から黄金は消えており、しかし不思議と残念な気持ちはなく、達成感と充実感があった。2人は水着姿で服を着ていない状態だったので、家に帰るためには服が必要だったし、公共交通機関に乗るためのお金も必要だった。臨時のパスポートの発行を兼ねて、最寄りの大使館に行ってお金を工面してもらうことにし、まずは大使館に向かうことにした。そのような夢を見ていた。フローニンゲン:2025/9/7(日)07:33
17354. 今朝方の夢の振り返り
今朝方の夢の第一幕に登場する小中学校時代の女性友人が受けていた「軽いいじめ」は、幼少期から心の奥に沈殿している小さな痛みや、未解決の人間関係の記憶を象徴していると考えられる。彼女が夢の中で安心した表情を浮かべたのは、自分自身が過去の自己に向かって「その痛みを引き受ける」姿勢を示したからである。この場面は、自分が今や成熟した大人として、幼少期の弱さを持つ自己を支える役割を担えるようになったことの象徴的表現である。体育館に移り、身長順の並びが入れ替わる場面は、成長と序列の再編成を暗示している。かつての友人との位置関係の変化は、単なる身長の比較を超えて、発達や経験の差異、また人生における役割の交代を映し出す。とりわけ、突然流暢に英語を話し始めた友人の姿は、他者の急激な成長や異文化との接触による飛躍的な変化を象徴しており、それを見て驚きを隠せなかった自分の感情は、自身がまだ歩んでいない発達可能性への刺激であると解釈できる。第二幕の黄金の冒険は、人生の奥深い意味を帯びる。黄金は象徴的に「真の価値」や「叡智」「人生の宝」を示す。親友と共にそれを掘り当てたという設定は、孤独な探求ではなく、信頼できる関係性の中で初めて大きな成果や深い洞察が得られることを示している。同時に、黄金を狙う透明な盗賊団の出現は、内的・外的に潜む脅威や嫉妬、あるいは無意識の影の側面を表している。彼らが目には見えない存在として迫ってくるのは、人生において多くの障害や不安が形を持たずにやってくることの比喩である。しかし、その追跡から逃れるために川へと飛び込む選択は、自分が不安や圧力に真正面から戦うのではなく、流れに身を委ねることで突破口を見出す姿勢を象徴している。激流に呑まれるのではなく泳ぎきることができたのは、すでに自分の中に自然な適応力としなやかな力が備わっていることの証左である。さらに川の中に現れたオランダの家々の光景は、現実の生活環境と深く結びついている。浸水した街並みは、異郷での生活が時に不安定で流動的であることを映し出す一方で、透明な水と晴れ渡る太陽が示すように、その環境は明るさと可能性に満ちている。黄金が手元から消えても満足感が残ったのは、真の価値とは「所有」にあるのではなく、「経験そのもの」に宿ることを直感的に理解しているからである。黄金を持ち帰ることよりも、親友と共に困難を潜り抜け、美しい光景を目撃したこと自体が報酬であったのである。最後に服やお金を必要とする現実的課題が示されたのは、精神的な達成感だけでは生の持続には不十分であるというメッセージであり、象徴的な宝と同時に日常的な資源の確保もまた必要不可欠であることを示している。この夢全体が示す人生の意味は、過去の自己と現在の自己を結び、仲間との協働の中で「見えない困難」を超えていくことの価値にある。真の宝は手元に残る物質ではなく、経験、友情、そして成長の実感である。流れに逆らわず泳ぎきるように、人生もまた変化と不確実性に適応しながら歩むことで、透明な光に満ちた景色が開けていくことを、この夢は自分に伝えているのだろう。フローニンゲン:2025/9/7(日)07:47
17355. IELTSのリスニングの最初の模擬試験を解き終えて
時刻は午前11時を迎えた。昨日に引き続き、今日も朝から快晴に恵まれ、早朝のジョギング兼ウォーキングはとても心地良かった。朝日を浴びてエネルギーが活性化されたことに加えて、最近はクールダウンをする際に、遠くの空や森を見て、とりわけ右目の視力の向上を図っている。日常ではパソコンや書籍などの近くを見ることが多いため、こうして朝のジョギングや散歩の時間にはできるだけ遠くを見るようにし、書斎でも休憩をする際には窓の外のできるだけ遠くを眺めるようにしたい。
先ほど、今年初めてのIELTSのリスニングの模擬試験を1セット解いた。これまでの学習は、問題形式ごとに分けて演習をしていたので、こうして全てを通しで解いてみることは非常に有意義だった。本番と同じ条件設定にし、聞き取れない問題があってもそれを気にせず次の問題に気持ちを切り替えて臨むことを心掛けた。IELTSのリスニングセクションでは、最初に問題文をどれだけ読み取ることができるかが解答効率を上げる。最初にガイダンスの文章が読み上げられている時には、セクションの2か3に出てくるであろう選択肢問題の問題文に少なくとも目を通しておき、いざそのセクションを迎えたら選択肢を吟味するように時間を使った。その他の形式の問題は、問題が始まる前の30秒の時間で問題の構造を把握し、解答の鍵を発見することができるので、自分にとっては選択肢形式の問題の事前準備に最も時間を充てたい。今回は最初の模擬試験ということで、色々と課題が見つかった。複数形にするべきところを単数形で解答していたり、“ing”形で解答しないといけないところを動詞の原形で解答していたりといったミスがあった。それらを含めて5問ほど間違えてしまったので、バンドスコアとしては8.0止まりとなった。ここから本番で8.5以上を取るためには、ミスを2問ほど減らし、誤答を3問以下に抑える必要がある。9.0を取得するためには、ミスは1問しか許されず、それを課してしまうと過度なプレッシャーになり得るので、3問までの間違いは許容する形で、本番では8.5以上のスコアを取得したいところである。午後にはまた時間をとって、今度はリーディングのセクションを本番と同じ時間設定で問題を解いていく。リスニングに関しても正当数とスコアは同じであり、2年前は8.5だったので、できるだけ1問以下の間違いを目指しながらも、3問以下の間違いは許容するような態度で、過度に自分を追い込みすぎず、問題文を楽しむようなゆとりを持ってリラックスした状態で本番を迎えたい。そのためには、ここからの模擬試験で本番と同条件の中で解答していく訓練を積んでいくことを大切にしたい。フローニンゲン:2025/9/7(日)11:14
17356. ルース・カストナーの『Adventures in Quantumland』
今日のIELTSの対策のノルマをこなしたので、読書の続きをしたい。ルース・カストナー(Ruth Kastner)の著作『Adventures in Quantumland』は、量子力学の複雑で直観に反する世界を、一般読者にも理解可能な物語的スタイルで紹介する入門書である。本書の目的は、量子論を単なる数式や難解な理論の集積としてではなく、読者が実際に「量子の国(Quantumland)」を旅するかのように体験し、その不可思議な法則がどのように私たちの現実を形作っているのかを感じ取れるようにすることにある。カストナーは、従来の教科書的説明では届きにくい量子力学の本質を、比喩や物語を駆使しながら展開することで、専門外の人々にとってもわかりやすい世界観を提示している。本書では、量子力学の代表的な謎――二重スリット実験、波と粒子の二重性、量子もつれ(エンタングルメント)、そして測定問題――が「量子ランドのアトラクション」として描かれる。読者はあたかも遊園地を巡るように各章を進み、直感に反する現象と対面する。その中でカストナーは、観測によって波が粒子に「変わる」といった単純な理解が誤解を生むことを指摘する。彼女は、背後にある「可能性の場」を実在的に捉えるべきだと説き、これを理解することで量子論のパラドックスが解けると示す。本書の根底には、カストナーが発展させてきた「拡張トランザクション的解釈(Possibilist Transactional Interpretation, PTI)」が流れている。これは、ジョン・クレイマーの「トランザクション的解釈(TI)」をさらに深化させたものであり、量子現象を「発信波」と「確認波」のやり取りとして理解する。カストナーは、これを単なる物理的比喩ではなく、現実の成り立ちを説明する実在的枠組みとみなす。すなわち、観測以前にも「可能的存在」がリアルに広がっており、それがやり取りを経て「現実の出来事」として結晶化するのである。この視点は「観測が現実を作る」という単純化されたコペンハーゲン的見方を超えており、また「無数の世界が並行的に分岐する」という多世界解釈にも頼らない新しい道を提示している。『Adventures in Quantumland』はまた、教育的意義も大きい。従来の量子力学教育は、数学的形式を先に学ばなければならず、一般読者には高い壁となっていた。カストナーは物語的な語りを通じて、「まず現象の直感的理解」を重視する。読者は量子ランドを探検しながら、自分が常識だと思っている因果律や時間の流れが、量子レベルでは必ずしも通用しないことを知る。彼女は「時間は一方向に流れる」という思い込みを崩し、未来から過去への因果的影響すらあり得ると示す。これは、量子もつれや測定問題を理解する上で欠かせない視点であり、量子の世界を「時間対称的」な広がりとして捉えることの重要性を読者に伝えている。さらにカストナーは、量子力学の哲学的帰結にも言及する。本書における「量子ランドの冒険」は単なる科学入門ではなく、読者に「現実とは何か」「私たちの経験世界はどのようにして生まれているのか」という根源的な問いを投げかける。彼女が描く世界では、私たちの現実は固定的な物質的基盤から立ち上がるのではなく、むしろ「見えざる可能性の海」から選択的に顕現するものである。したがって本書は、物理学的理解と同時に、哲学的・形而上学的な探究への招待でもある。総じて『Adventures in Quantumland』は、量子力学の難解さを「冒険」として楽しく体験させつつ、その背後に潜む深遠な現実観を浮かび上がらせる書物である。量子論の基礎を学びたい一般読者にとっても、従来の解釈に疑問を抱く研究者にとっても、現実を捉え直す契機を与える。カストナーの提示する「可能性としての実在」という視座は、単に科学の理解にとどまらず、私たちの世界観そのものに揺さぶりをかけるものである。すなわち本書は、量子物理学を通して「現実をどう生きるか」を問う哲学的な旅の案内書なのである。フローニンゲン:2025/9/7(日)15:40
17357. ジャンカルロ・ギラルディ『Sneaking a Look at God’s Cards』
ジャンカルロ・ギラルディ(Giancarlo Ghirardi)の著書『Sneaking a Look at God’s Cards: Unraveling the Mysteries of Quantum Mechanics』は、量子力学の根本的な難問を平易かつ批判的に解説した名著である。そのタイトルにある「神のカードを盗み見る」とは、アインシュタインが量子論に対して「神はサイコロを振らない」と述べた比喩を下敷きに、自然の根本法則の背後に隠された真理を垣間見ようとする営みを意味している。ギラルディはイタリアの理論物理学者であり、量子力学の解釈問題、特に「測定問題」の研究で知られ、GRW理論(Ghirardi–Rimini–Weber collapse model)の提唱者の1人でもある。本書は専門的議論に踏み込みつつも、一般読者にも届くように哲学的背景や歴史的文脈を重視し、科学と形而上学の接点を浮かび上がらせる構成となっている。量子力学の核心的問題は、観測によって波動関数が「収縮」するというプロセスをいかに理解するかにある。数式的にはシュレーディンガー方程式が時間発展を決定づけるが、それは常に連続的で確率的な重ね合わせを維持する。ところが観測が介在すると、なぜか1つの結果に「飛躍」する。この「二重の法則」の共存こそが測定問題であり、ギラルディは本書でこれを避けず真正面から扱っている。彼はまず、量子力学がどのように誕生し、コペンハーゲン解釈が標準的な見解となったかを歴史的に整理する。その上で、ボーアやハイゼンベルクが提唱した「観測者と装置による古典的切断」という考えが、いかに哲学的に不透明であるかを批判的に検討する。彼は、単なる実用主義的な態度ではなく、理論的整合性と実在論的理解を求めるべきだと主張するのである。本書の白眉は、さまざまな解釈の比較検討にある。エヴェレットの多世界解釈は波動関数の収縮を否定し、全ての可能性が並行世界に実現しているとするが、ギラルディはその形而上学的コストの大きさを指摘する。ボーム力学は隠れた変数によって決定論を回復しようとするが、量子ポテンシャルの奇妙な非局所性が問題視される。コペンハーゲン解釈は現象主義的だが、なぜ観測によって結果が確定するのかは説明できない。ギラルディはこれらを公平に紹介しつつ、自らの立場であるGRW理論を提示する。GRWは波動関数が自然に、ランダムに、自発的に収縮する仕組みを導入するものであり、観測者や装置を特権化することなく「単一の現実」を回復できる点で優れていると彼は考える。この理論は通常のミクロな領域では量子論と同じ予測を与えつつ、マクロな世界においては重ね合わせを抑制するため、日常経験と理論が自然につながるという利点を持つ。本書がユニークなのは、単なる理論紹介にとどまらず、科学的認識の限界と哲学的選択の重要性を強調している点である。ギラルディは「神のカード」を完全に覗き見ることはできないと認めながらも、科学はその背後にある構造に近づく営みであると信じる。量子力学は人間の直感に反する奇妙な世界像を提示するが、それを単なる計算道具とみなすか、実在の記述とみなすかによって、科学観そのものが変わる。ギラルディは後者の立場を取り、理論の背後にある存在論的問いを逃げずに考えることこそ、物理学と哲学の責任だと説く。総じて『Sneaking a Look at God’s Cards』は、量子力学の神秘を解き明かす試みであると同時に、人間が自然をどう理解するかという根源的な問題を問い直す書物である。ギラルディは、私たちが「神のカード」を完全に手にすることはできないにせよ、その絵柄を少しでも垣間見る努力が科学の本質であると語る。その姿勢は、量子論を単なる技術の基盤としてではなく、世界像を再構築する哲学的契機として捉えることの重要性を示している。すなわち本書は、量子力学の謎を通じて、科学の限界と可能性を同時に示唆する現代的な知の冒険譚なのである。フローニンゲン:2025/9/7(日)15:50
17358. カルロ・ロヴェッリとフランチェスカ・ヴィドットの著作『Covariant Loop Quantum Gravity』
カルロ・ロヴェッリとフランチェスカ・ヴィドットの著作『Covariant Loop Quantum Gravity』は、ループ量子重力理論(Loop Quantum Gravity, LQG)の中でも「共変的定式化」(covariant formulation)に焦点を当て、その数理的基盤と物理的意味を体系的に展開したものである。本書の中心的な課題は、一般相対性理論の背景独立性を保持しつつ、量子場理論の方法を適用することにある。すなわち、時空を固定的背景として前提するのではなく、時空幾何そのものを量子化の対象とするという立場を徹底する点に独自性がある。ループ量子重力の基礎は、アシュテカル変数による時空の記述に由来する。ここで重力場はSU(2)ゲージ場として書き換えられ、その量子化によって「スピンネットワーク」と呼ばれる離散的構造が現れる。このスピンネットワークは空間の量子状態を表し、面積や体積が連続値ではなく量子化された固有値を持つことを示す。つまり、空間は極限的には連続ではなく、有限の構成要素に分解される。本書が焦点を当てるのは、この空間の量子状態がどのように時空の「歴史」として結びつくかという問題である。そこで導入されるのが「スピンフォーム」(spin foam)である。スピンフォームは、スピンネットワークの時間発展を表す二次元的な複体であり、これを通して量子重力の経路積分的な定式化が実現される。換言すれば、スピンフォームは「離散化された時空のファインマン経路積分」に相当し、量子幾何の遷移振幅を与える役割を果たす。ロヴェッリとヴィドットは、特に「エヴァンス–ペレイラ–ロヴェッリ–エングル–クラウスモデル(EPRLモデル)」と呼ばれるスピンフォームモデルを中心に議論を展開する。このモデルは、古典的極限において一般相対性理論のアインシュタイン方程式を再現することが確認されており、ループ量子重力における最も有力な候補として広く研究されている。本書では、このEPRLモデルの数理構造が詳細に解説され、共変的ループ量子重力がどのように一貫した量子重力理論として成り立つかを論じている。また重要なのは、ループ量子重力が「背景独立性」を保持するという点である。通常の場の量子論は固定された時空座標系を仮定して展開されるが、重力そのものがダイナミカルであるため、この前提は適用できない。ループ量子重力は、位相的複体や群表現を用いた「離散的・代数的」な枠組みで計算を行うことで、時空の事前設定を排除している。このアプローチによって、ブラックホールのエントロピー計算や宇宙初期の特異点回避といった応用的成果も得られている。ロヴェッリとヴィドットはさらに、スピンフォームモデルが古典的時空幾何と連続的に接続する方法を考察する。すなわち、量子幾何がマクロなスケールではリーマン幾何に近似され、通常の一般相対論の世界が出現する過程が議論される。この「古典的極限の出現」は量子重力理論にとって不可欠であり、本書の議論の核心をなしている。総じて、『Covariant Loop Quantum Gravity』は、ループ量子重力の発展の中で「空間の量子状態」から「時空の量子歴史」への橋渡しを行う理論的書物である。背景独立性を維持しつつ、量子場理論的な経路積分の枠組みを適用することによって、時空の根本的な離散性と連続的な古典的世界の両立を説明しようとする。その意義は、弦理論など他のアプローチとは異なる視点から、重力と量子の統一を試みる点にある。すなわち、本書はループ量子重力の共変的定式化を最も包括的に示した代表的文献であり、時空そのものを量子化するとはどういうことかを明らかにする重要なマイルストーンなのである。フローニンゲン:2025/9/7(日)18:16
Today’s Letter
Like yesterday, I went running and walking in the morning. The morning sun was gentle, and its light boosted my energy. I befriended the sun. Groningen, 09/07/2025

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