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921.【ザルツブルグ訪問記】終わりと始まりの間にある自己回帰

April 21, 2017

——旅愁とか旅情とか全て旅をしている感じを指すものは、こうしてある場所に自分を見出すことから発している——吉田健一

三日間にわたる非線形ダイナミクスに関する学会が終了した。主催者から学会を締め括る言葉が述べられた後、私は隣に座っていたオランダ人のヘレーナに挨拶をしたらすぐに会場を後にした。

 

会場を後にし、とりあえず宿泊先のホテルで少しばかり一人の時間を設けようと思っていた。一人になりながら、あれこれと今回の学会について振り返りを行っていた。

 

だが、なぜだが自分の言葉が思うように出てこなかった。そうした状態が就寝まで続き、一夜が明けた。

 

晴れ渡るザルツブルグの早朝と同様に、自分の心も確かに清々しさのようなものがあった。しかし同時に、何とも言い難い名残惜しさのようなものが胸に飛び込んできたのだ。

 

今朝の私は間違いなく、学会で出会った素晴らしい研究仲間たちとの別れを惜しみ、ザルツブルグでの滞在も今日が最後であることを惜しんでいるようであった。私はこうした名残惜しさと正面から向き合わなければならない。

 

これまで何度となくこの感情を見て見ぬ振りをしながらやり過ごしてきた。昨日の学会終了後の行動は、これまでの人生で何かが形式上終わるときに取ってきた自分の行動と何ら変わるものではなかった。

 

昨日の学会が終了した時の感情は、学校の卒業式が終わった感覚に近かった。卒業式に参加しなかったものも幾つかあるが、参加した卒業式ですら、式が終わると、私は友人やお世話になった方に挨拶をすることを最小限にとどめ、一人になれる場所に向かう傾向が強くあった。

 

私が昨日に取った行動はまさにそれと同じであった。宿泊先のホテルの自室で少しばかりこの件について考えていた。

 

考えようと思って考えたのでは決してない。思考と感情がこの対象に自発的に向かうのだ。

 

私の内側で、それが外側に形として表出したがっていることに気づいた。その衝動に従うと、その正体は旅情の最終地点であった。

 

何かが終わることに伴う始まりを告げる感情、そして、何かが始まることに伴う自己回帰の感情であった。自分の内側で何かが終わり、何かが始まり、再び自己に戻ってきた時に感じるものが、今私がこの瞬間にまさに感じている感情にほかならない。

 

これは、昨年の夏の欧州小旅行の際に日記に書き留めていた「旅の侘び寂び」とほとんど同じものだと思うのだ。だが、あの時には、旅が終わりを告げることが自己に回帰するということの意味を掴んでいなかったように思う。

 

あの時に感じていたのは、何かが終わることに伴う新たな始まりであり、終わりと始まりの間隙に存在する侘び寂びであった。それは喜びのような感情とは全く別種である。

 

喜びのような明るい色を発することなく、同時にそれは暗い色を発するわけでもない。それは無色という色を持つ感情であり、色を持たない色が内側を照らすのだ。

 

無色であるがゆえに、新たな始まりとともにいかなる色にもなり得ることができるというのは確かだろう。しかし、色を求めてはならない。

 

なぜなら、自己の本質は、無色透明の中にある固有の色だからである。ここが鍵となる。

 

何かが終わり、新たなものが始まりを告げる時、私たちは自己に回帰する。自己回帰の際に、自己の固有の色が開示される無色透明の色の世界が顕現するのだ。

 

そこに自分の作為で色を付け加えようとしてはならないのだ。無色透明の色の世界の奥に、すでに自分固有の色がある。それを見出さなければならない。

 

三日間の学会が終わり、オーストリアの旅が終わりに近づく今日という日に、旅の侘び寂びをもたらす感情と静かに向き合うことができて幸運であった。どうしてこれほどまでに自己を見出すことが困難なのかを思わずにはいられない。

 

それは自己があまりにも私たちの近くに存在しているからであり、片時も私たちから離れたことはないからである。自己を見出す契機は、何かが終わり、新たなものが始まるその瞬間にあるのだと思う。

 

そしてその瞬間は、常に今目の前に起こっており、この連続する今という持続の中にあるのだ。2017/4/9

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