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2542. 心の眼を喪失した現代人


トランジション期のケアについての文章を書き留めた後、私自身が先日行っていた中欧旅行というのもまさに自分にとってのトランジションの経験の一つであった。より厳密には、特に旅から日常に戻ってくる時のトランジションの過ごし方をどうするかが、自分にとっての見えない大切なテーマであったように思う。

旅というのはまさに私たちを日常の外に連れ出し、非日常的な意識に不可避的に参入させる。それゆえに、普段感じないことや考えないことが自分の内側から湧き上がることがある。

旅の意義の一つは、それが私たちを日常から外に連れ出し、もう一度日常を新たな目で捉え直すことを可能にすることだろう。それに付随して、自己の変容作用がある。

日常を新たに眺める感性を獲得し(回復し)、自己に小さな変容を起こすのが旅の本質的な作用であるならば、旅の終わり方というのは極めて重要だろうし、旅から日常へと移っていくトランジション期の過ごし方はとりわけ重要になるだろう。

変化が激しく、人工的に構築された激しい時間の流れの中に生きている現代人にとって、旅の終わり方にせよ、トランジション期の過ごし方にせよ、それらが非常に難しいものになっているのではないかと思う。そもそも、現代人はトランジション期に対する適切な認識を持ち合わせているのだろうか。

季節の移り変わりの微細な差異に気付けないような現代人に、そうしたトランジションなど気づきようがないのではないだろうか。花が咲く過程を見守ることができず、早く花を咲かせようとし、咲いた花だけを見ようとするような現代人に、事物の変化の推移など見えようがないのかもしれない。

こうした現状は、単純に発達という文脈における問題を引き起こすということのみならず、人生における不幸を引き起こすように思える。

先日、家の玄関を開けたところにある地面に立派な草木が生えていることを発見した。その立派な佇まいに私はひどく感動していた。

なぜあのような感動があったのだろうか。それはきっと私が長い冬の時代を過ごし、新たな季節を待ち遠しく思いながら日々を送っていたからだろう。

それは目の前に見えた草木にとっても同じである。彼らも私もあるプロセスの中にいて、プロセスの中を生き、プロセスの重要性を知っているのだ。一つの感動が生まれるための長大な時間と経験がそこにあったことを知る。

森羅万象の変化に伴う時の流れについて考えたことはあるだろうか。それぞれの事物が変化を経験するためには、固有の時の流れがある。

先日私は満月を見た。それはしばらくすれば欠けていく。次の満月がやってくるまでには一定の時間が必要である。

かすかに新月が見えた時、私たちが翌日に満月を見ようと思ってもそれは無理な話である。なぜなら、月の満ち欠けは私たちの意思とは異なる時間の流れを持っているからである。

月は私たちとは異なる固有の時間を生きているのだ。だが、私たちは観えようもないはずの満月を見ようと躍起になる。あるいは、人工的に満月を作ろうとさえする。それに似たことを現代人は至る所で行っている。

母体の中に懐胎した生命が外の世界に誕生するまでの時間。懐胎から誕生までのプロセスの意義とその重み。

成長発達を急かそうとする馬鹿げた試みに盲目的に重視しようとする現代人。結果だけを追い求め、結果だけにしか注目をしない、心の眼を失った盲目的な現代人。

母体に懐胎した生命を翌日に引っ張り出して果たしてその後の育成を全うすることができるのか。現代人にその術はなく、結局は育成を放棄するという無責任な行動に出るに違い無い。

懐胎から誕生までになくてはならない動かしようのない時間があるのと同様に、人間の変化や発達が起きるための動かしがたい時間が歴然と存在しているのだ。そうした時間を超えて人の成長や発達を促すことなどできはしない。それができると思うのは自己肥大の表れであり、無知の表れである。

心の眼を失い、無知で浅薄かつ無責任な行動を取りがちなのが現代人の特徴であり、そうした人間を生み出す時代の中に私たちは生きているということをもう一度ここで自覚する必要があるように思うのは私だけなのだろうか。フローニンゲン:2018/5/9(水)20:19

No.1010: Meditation in the Icy World

It is cool or even chilly in the morning in Groningen.

I was “meditating” on the “meditation” in the icy world. Groningen, 10:51, Wednesday, 6/6/2018

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