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415. 知識体系の素材


現在、新たな知識領域を複数個同時に開拓していくことを迫られている。この開拓作業は、脅迫的なものというよりも衝迫的なものである。つまり、複数個の知識領域を獲得することを外側から強制させられているというよりも、内側から突き上げてくる思いに沿って実行しているのである。

自分の書斎の中にいる今の私は、数々の読みたい書籍や論文に取り囲まれている。そして、いよいよ明後日には日本から船便で送った書籍群が自宅に届けられる。こうなってくると、少しばかり慎重に読むべき書籍や論文を選定していく必要がありそうである。

先日の読書会で用いた事前課題を振り返っていると、確かに事前知識を必要とするような設問が含まれてしまっていたことに気づく。専門知識を要求するようなそうした問いが難しく感じられる、というのは極めて正常である。知識がなければ見えてこない現象があり、知識がなければ見えてこない世界があるのは確かである。

また、知識があることによって初めて、自ら生み出せる新たな世界があることにも気づかされる。そうなのだ。知識というのは世界を認識するための手立てであるだけではなく、世界を構築していくための手立てでもあるのだ。知識のそうした性質を考えてみると、自分が関心を寄せる領域の知識を体系的にしっかりと身につけることが重要だということに改めて気づかされる。

現在、私はフローニンゲン大学で講義をする側ではなく、聴く側に回っているが、ここの教授陣たちは受講生に当該領域の知識を体系的に身につけさせようとするような配慮を持っていると感じている。実際に、講義の中では種々の科学的な理論や実証結果などに触れ、その領域における専門的な知識をまずは受講生に獲得してほしい、というようなメッセージを強く感じるのだ。

フローニンゲン大学で幾つかの講義を聴くことによって、これまでの私のゼミナールについて再考を余儀なくされている。これまでは体系的な知識を提供するというよりも、受講生の方たちが経験豊富な実務家であるという特性上、「実践」を強調するような内容だったように思う。

要するに、これまでのゼミナールは受講生同士のディスカッションに重きを置き、こちらからまとまった量の知識を提供することには重点が置かれていなかったことに気づかされた。確かに、これまでのゼミナールでは、カート・フィッシャーのダイナミックスキル理論を取り上げたり、ロバート・キーガンの16個の段階モデルを取り上げてきたが、今後のゼミナールはより体系的な知識を獲得してもらうような内容に切り替えていこうと考えている。

その背景には、以前紹介したように、実戦に耐えうる知識というのは、そもそもある程度の量を持った体系化された知識なのだ。発達科学や複雑性科学の知識を実践の場で活用するためには、それらの領域で重要な概念や理論を網羅的に把握しておくことが最初のステップになるだろう。

つまり、体系化された知識を構築するための素材が必要になるのである。確かに、専門書籍や学術論文を読み込んでいけば、こうした素材を独学で集めることは十分に可能である。しかし、その領域の専門家でなければ、ふさわしい専門書籍や論文をうまく選定できなかったり、あるいはそもそもそうした書籍や論文にアクセスできないという状況にいる場合もあるだろう。

そうしたことを考えると、ある領域を専門とする者が、その領域固有の知識を専門外の者に体系的に伝えていくことは大切な役割だと思う。今後ゼミナールを開講するにあたっては、今私がフローニンゲン大学で教育されているようなやり方を踏襲し、実践の場で活用することのできる体系化された知識を作るための素材を提供していくようなものにしたいと思っている。

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