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394. 「変化」に関与する全ての職業人に求められる自覚


仕事の手をはたと止め、窓越しに夕暮れの空を眺めた。太陽が暮れゆく方角に一筋の飛行機雲を見つけた。その飛行機雲の先頭は白く、飛行機の進む度合いに合わせて白味が増していく。一方、その飛行機雲の後尾は飛行機の進行に応じてますます白味が失われていく。

しかし、白味が失われていく後尾は、沈みゆく太陽に照らされて黄金色に輝いていた。先頭を走ることによって光の恩恵を常に得られるわけではなく、後ろを走ることによってしか得られぬ光があるらしい。

黄金色に輝いていた飛行機雲の後尾は、ゆっくりと確実に私の視界から姿を消していった。無常にも跡形もなく消え去った飛行機雲について思いを巡らせると、そこには様々な示唆や啓示が隠されているように思った。

今日は夕方から、ヘンデリアン・スティーンビークとポール・ヴァン・ギアートの共著論文 “A complexity approach toward mind-brain-education (MBE); challenges and opportunities in educational intervention and research (2015)”を読んでいた。スティーンビークもヴァン・ギアートも共に、フローニンゲン大学における発達科学研究に多大な功績を残している研究者である。

この論文では特に教育の領域を取り上げ、ダイナミックシステム理論の観点から、学習支援者である教師に対して実践的な洞察を提供している。さらに、これまでの実証研究をもとにして、発達プロセスの中に見られる五つの法則性を紹介していることも注目に値するだろう。

二人の著者からの助言として、「学習支援に携わる教師は発達プロセスの研究者としての自覚を持たなければならない」ということが述べられており、これはごもっともな指摘だと思った。ダイナミックシステム理論を活用した研究が明らかにしているように、個人の学習プロセスは多様であるばかりか、個人の能力そのものも激しい変動を伴って日々変化するという性質を持っている。

学習にはこうした性質が不可避に伴うため、学習の結果のみに着目することは、多様な学習プロセスと学習者が持つ変動性を蔑ろにしてしまうことにつながる。そうした事態に陥らないためにも、学習のプロセスを絶えず観察し、動的なプロセスの進捗に合わせて適切な学習支援を行っていくことが支援者に求められることだと思うのだ。

変化の結果だけではなく、変化のプロセスをつぶさに観察する重要性は、何も学習を支援する教師だけにとどまらない。発達プロセスの研究者としての自覚は、「変化」という現象に関わる全ての職業人に求められるものだと思っている。

個人や組織の発達の鍵を握るのは、まさに「変動性」という現象であり、これを無視していては適切な関与は成就しない。発達支援につながる適切な関与をしていくためには、動的に変動する現象に絶えず寄り添う必要がある。

ジェーン・ロヴィンジャーやスザンヌ・クック=グロイター、そしてロバート・キーガンなどの構造的発達心理学者が指摘するように、認識能力が高度に発達した者は、このリアリティで生起する諸々の現象をプロセスとして捉える始めるという特徴を持つ。

こうした認識が重要な真理を内包し、このリアリティで生起する現象が単純に始点と終点で割り切れない「プロセス」としての性質を帯びているのであれば、私たちはより一層、現象のプロセスを掴むことに尽力するべきであろう。

プロセスの中に潜む動的な変動性と真に寄り添いながら関与し続けることによって、初めて発達支援と呼ばれる関わり方が成立するのだと思う。

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