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278. 一年目の修士論文概略

研究者としての留学が本格的に始動するまで、後3週間ほどある。現地入りを早くした理由は、プログラムが開始すると同時に、自分のリズムで研究活動を行うための身体的・精神的な準備期間が必要だと思ったからだ。

フローニンゲン大学での一年目の修士課程では、ダイナミックシステム理論を活用した知性・能力の発達に関する研究を進めていく予定である。今年の年初にフローニンゲン大学を訪れた時に、論文アドバイザーを務めてくださるサスキア・クネン先生と修士論文の打ち合わせをさせていただいていた。

今回の修士課程は一年間のプログラムであるという性質上、プログラムが開始されるとすぐに論文の執筆に取り掛かっていきたいと思っている。以前紹介したように、フローニンゲン大学が研究に力を入れている学術機関であるためか、修士号取得に向けた修士論文の単位数の割合が非常に大きいのだ。

通常のクラスの単位数と修士論文の単位数は見事に半分半分であり、これは「プログラム開始から論文執筆に着手せよ」という暗黙のメッセージのように映る。

一年目の修士論文のテーマは、ダイナミックシステム理論を活用した学習プロセスの研究である。より具体的には、グループ学習の中で学習者がどのように相互作用を行っているのか、その相互作用はどのようなパターンを持っており、それが学習者の能力発達にどのような影響を及ぼしているのかをダイナミックシステム理論を用いて解明していくことにある。

発達理論をオンライン上で学べるゼミナールを過去数年間にわたって提供してきたことが、この研究のきっかけとなっている。多様な受講生がクラスの中で生み出すダイナミズムには驚かされることが多々あり、受講生同士の相互作用が生み出すダイナミズムが学習成果に強く結びついているのを直感的に把握していた。

興味深いのは、受講生の組み合わせやテーマが変わると、対話のダイナミズムも変化し、クラス内の対話は非常に複雑な振る舞いを見せていると思っていた。要するに、一人一人の受講生が一つのダイナミックシステムであるだけではなく、学習グループが一つのダイナミックシステムを形成しており、その挙動が実に複雑多彩なのである。

これは私の感覚であるが、毎回のクラスの色や形が全く違うのだ。赤くしなやかなクラスの時もあれば、灰色で硬いクラスの時もある。また、クラスの進行に応じて、色や形が万華鏡のように変化するのも面白い点だろう。

この研究を進めるにあたっての仮説は、クラス内の対話を分析すると、幾つかの決まった挙動パターンに分類することが可能であり、そのパターンに応じて学習成果が変動するというものである。端的に言ってしまうと、挙動が単調な場合は学習成果がそれほど高くなく、挙動がカオス的な振る舞いを見せる時は学習成果が高まるのではないか、という仮設である。

私たちは絶えず変化し続ける生き物であり、知性や能力も絶えず運動をしているという性質上、それらの動きを単調なものにしてしまう場合に発達が促進されないというのは、直感的に考えれば当たり前と言えば当たり前かもしれない。ただし、このあたりを実証的に研究している論文をあまり見かけたことがないので自ら研究してみようと思ったのだ。

当初は、発達理論を活用した臨床実践も私の仕事の一つであり、これまで行ってきた発達支援コーチングにダイナミックシステム理論を活用する研究も考えていたが、一対一の対話にダイナミックシステム理論を活用している研究はすでに散見されるため、ほとんど誰も着手しておらず、なおかつ挙動がより複雑なグループ対話を研究対象に設定したという背景もある。

先行研究を眺めてみると、教師と生徒という一対一の対話にダイナミックシステム理論を活用しているものは比較的多く見られたが、コーチとクライアントという一対一の対話にダイナミックシステム理論を活用しているものは今のところ見当たらない。

そうした意味において、発達支援コーチングにダイナミックシステムを理論を活用する研究もそれなりに意義があると思うが、今回はあえてより複雑な現象であるグループ対話に切り込んでいくことにした。

この論文はあくまでも修士号取得のためにフローニンゲン大学に提出するものであるが、論文内容を洗練させて査読用の論文としてどこかのジャーナルに投稿したいと考えている。

また、今回の研究成果をオンライン上のグループ学習のみならず、企業組織におけるトレーニングやワークショップにも拡張適用できるようにしていきたいと思っている。

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