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57. 認知構造と活動の分離:チョムスキー派とピアジェ派の思想の限界


生得論者と多くの認知科学者はこれまで、人間の深層部分に存在する能力と実際の活動を切り離す思想特性を持っていました。こうした分離を提唱した代表的人物は、ノーム・チョムスキーです。彼が主張する普遍文法は残念ながら、実際に私たちが言語を用いてコミュニケーションをしている際に現れる多様性を十分に説明することができません。

つまり、チョムスキーは、彼の主張する生得的な言語規則と実際のコミュニケーションの場で用いられる言語活動とを切り離してしまっているのです。これと似たような考え方を発達心理学の領域でも見つけることができます。

例えば、ピアジェの提唱する認知構造モデルは、構造それ自体と認知活動を完全に切り離してしまっています。その結果として、ピアジェの構造モデルを信奉する発達論者は、実際の認知活動で見られる可変性を説明できないという行き詰まりを経験しています。

チョムスキーやピアジェの思想に影響を受けた、構造と活動を分離させる説明モデルは、認知構造をまるで脳と心に埋め込まれた固定的な規則であるかのようにみなし、認知構造は活動を生み出す文脈と独立して存在しているとしています。

要するに、これらの説明モデルは、活動を規定する固定的な認知構造の存在を強調することによって、認知・言語活動に存在する可変性を切り捨ててしまっているのです。これは、チョムスキーやピアジェの説明モデルだけに見られることではなく、領域特定型発達モデルや生得論者の発達モデルにも等しく見られます。

まさにこれらが既存の発達パラダイムに浸透している固有の限界点であり、新しい発達パラダイムは、これらの限界を克服する必要に迫られています。そこでは、単に発達の可変性を説明することが求められているのではなく、発達構造が持つ階層構造、ある文脈における他者との相互作用、発達の網の目構造という概念を駆使しながら、人間の思考・感情・行動が持つ動的な側面を明らかにするモデルを構築することが要求されているのです。

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