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2800. 文化的な条件付けと人間発達


土曜日が静かに終わりに近づいている。時刻は午後の八時に近づいてきており、今は夕日が最も美しい時間帯だ。

午後十時を過ぎてからでなければ沈まぬ夕日を眺めていると、今この瞬間に考えなくてもいいことを考えてしまった。それは、後二ヶ月もすれば日が暮れるのはすっかり早くなっているであろう、ということだった。

この短い夏の期間が終われば、長く厳しい冬の季節がやってくる。欧州で迎える三回目の冬は、これまでとはまた違ったものになるだろう。

これまでは大学に所属していたが、今年の冬はどこにも所属しないまま過ごしていくことになる。以前から、私はどこか特定の組織や機関に所属しようという思いはほとんどない。

この冬は一人で書斎にこもって黙々と探究活動と創造活動に精を出す毎日を迎えることになる。そうした日々を何を思い、何を考えながら過ごしていくのか。

何が自分の根幹的な支えになるのかを見つけながら日々を過ごしていく必要がある。この冬を乗り越えれば、おそらくもう私は完全に何かから解放されることになるだろう。

どこにも所属せず、何にも縛らず、ただ自分の望む探究活動と創造活動だけを続けていく毎日。その実現を強く望む自分がいる一方で、それを実現させるための鍵はこの冬の生き方にあることを知っている自分がいる。

この冬がやって来ることを否定的に捉えるのではなく、肯定的に捉えていく。そもそもあるがままの冬には否定も肯定もないことをまずもって認識しなければならない。

今日はこれから“Krishnamurti: On Education (1974)”の続きを読み始めていく。午前中に本書を読んでいると、いくつか重要な気づきを得た。

クリシュナムルティが述べているように、真の教育とは何か特殊な技能を教えることよりも、社会の流れに溺れないようにすることを教えることに重きが置かれる必要が本来あるのではないかと思う。

言い換えると、社会に従順に従うのではなく、また社会の流れに盲目的に流されていくのではなく、この社会を批判的に眺めうる力を授けることを大切にする必要があるのではないだろうか。確かに子供は一度社会の仕組みを学ぶ必要があることは確かである。

しかしそれは本来、社会に従順に従えということを意味しないはずである。とりわけ成人にとっては、社会によって条件付けられた精神を開放することが教育の真の目的であろう。

決して社会に縛ることが教育の目的ではなく、社会を対象化し、社会から自己を解放していくことがその目的のはずだ。クリシュナムルティが同様の趣旨のことを述べており、大変共感を覚えた。

結局、多くの人にとってはエアーコンディショニングとカルチュラルコンディショニング(文化的条件付け)は同じほどに心地良いのだ。だから多くの人は文化的条件そのものを対象化しようとすら思わないのだ。

それが結果として、自らを既存の社会的枠組みや発想に縛ることを招く。

文化的な条件付から自己を解放するための方策について考える。これは非常に難しい。

クリシュナムルティも似たようなことを述べていたが、やはりこれまでの自分の経験を振り返ってみても、まずは自らの存在が、所属する文化によって条件付けられていることを強く自覚する必要があるように思う。

この気づきからスタートさせなければどうしようもないように思う。それではそうした気づきはどうやったら生まれるのだろうか。

これは正直なところ、その国に留まっている限り実現は難しいのではないかと思う。所属する文化にいながらにしてその文化を対象化できる人間は、本当に極々少数だ。

これまでの経験上、やはりそれは一度国を離れて生活をしてみて始めて実現されるものだと思う。自分自身を振り返ってみると、日本の文化的な条件付けを対象化し始めたのは、間違いなく米国に住み始めてからであったし、米国の文化的な条件付けを対象化し始めたのは、欧州に住み始めてからであったように思う。

これから私は、欧州をいつか離れることによってこの土地の文化的な条件付けを対象化することになるだろう。様々な国で生活を営めば営むほどに、種々の文化的な条件付けに気づいていく。

そしてそれらから徐々に解放されていく自分がいることにも気づく。こうした解放が自己そのものへの認識を深め、自己の囚われからも自己を解放していくことにもつながっていく。

日本を離れて生活してまだ七年ほどであるため、国の外で物理的生活および精神生活を営むことについてはまだまだ未知なことが山積みである。そうした未知を既知に変換していくことがこれからも、そして一生続いていくのだと思う。フローニンゲン:2018/7/7(土)20:20 

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