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1137. 多様な領域の関係者と協働する専門家が持つべき三つの特性


今日は早朝に、日本を代表するある企業の方と、成人発達理論をもとにした人財育成プログラムに関する打ち合わせをした。協働者がその業界に精通し、なおかつ日本の人財育成が抱える構造的な問題を的確に捉えている場合、特に協働の進めやすさという点において大変有り難く思う。

同時に、今日のミーティングを通じて、専門家としてのあり方についてあれこれと考えさせられていた。そもそも、専門家として他の領域の方と協働をするに際して、自分の領域における専門性を確固たるものにすることは言うまでもない。

これは専門家としての最低限の条件である。同時に、他の領域と越境する形で専門性を発揮するためには、自らの専門性を確立しているだけでは不十分だ。そこで求められるものの一つとして、いかに自らの専門領域内の言語体系を、他の領域にいる協働者に理解してもらえるように翻訳をするような能力が挙げられるだろう。

つまり、それはこちらの言語体系を協働者の言語体系を通じて表現していく能力のことを指す。同時に、協働者が置かれている領域の固有の言語体系を柔軟に取り入れ、そこで語られている内容を速やかに理解していくような力も必要となる。

要するに、真の意味で他の領域の人たちと協働できる専門家には、優れた通訳者のような能力が求められるように思うのだ。こちらの言わんとすることを相手の言語体系を通じて語り、相手が語っている内容そのものと同時に相手の言語体系そのものを理解し、自らの専門領域の言語体系で再解釈した上でさらに対話を続けていくような力が必要になるのだと思われる。

自らの専門領域の言語体系の外に出られないというのでは、異なる言語体系を持つ多様な関係者と協働作業を行うことなど不可能だろう。多様な領域の関係者と協働作業に従事することができるのは、自らの専門領域における言語体系を高度に構築し、その言語体系の枠組みから柔軟に他の言語体系に移行できるような可動力を持つ専門家のみだと思われる。 もう一つ、今日の打ち合わせを通じて考えさせられたのは、ある専門領域に立脚して発言をするというのは、ある意味、立場を明確にした還元主義的な発言をしなければならないということである。「還元主義」という言葉は否定的に響くが、それは常に否定的なものとは限らない。

確かに、米国の哲学者かつ認知科学者のダニエル・デネットが指摘している「貪欲な還元主義」というのは、否定的な還元主義の例である。ここでの議論に沿う形でこの言葉を捉え直すと、それが意味するのは、専門家自身が自らの発想や発言が立脚する構造に無自覚であり、現象の複雑性を蔑ろにし、自らの専門領域における知識を浅薄な形で適用することによって、現象の一部を早急に説明しようとするあり方を示す。

特に、対象とする現象が専門領域以外の場合、こうした還元主義的なあり方はさらに深刻な問題だと言えるだろう。一方で、こうした否定的な還元主義ではなく、健全な還元主義というのは、まさに専門家が自らの発想や発言が生み出される構造そのものを的確に捉え、その構造が抱える盲点や限界に自覚的であり、複雑な現象を自らの専門領域の知識と思慮を伴った思考によって解釈するとき、初めて還元したものによってその現象がうまく説明されるということが起こる。

専門家として何かを発言するというのは、ある特定の立場に立脚して自らの考えを打ち出すことに他ならず、その立場が生み出される構造特性に無自覚であってはならないのだと思う。

要約すると、専門家として他の領域の関係者と真に協働するためには、自らの専門領域の言語体系を高度化させることのみならず、複数の言語体系を柔軟に越境するような通訳力と、自らの拠って立つ専門領域の構造的な限界と盲点に自覚的になって発言することができるかどうかにあるのではないだろうか。2017/6/5

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