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471. 促しと探究心


昨日、突然の思いつきで、書斎の机の配置を変えた。机の配置を変えることによって気分が大きく変わったのを実感している。環境心理学の観点を用いるまでもなく、自室にある物を動かすだけでも、自分の気分が変化したのは疑いようのない事実であった。

環境からの外的刺激に少し変更を加えることによって、自分の感情や思考の性質に変化が生じるというのは面白い現象である。しかし、そうした変化は往々にして一過性のものに過ぎない場合がある。今の私は外側からの刺激を求めていない。

他者や書物からも刺激を求めてはいないのだ。求めているものがあるとすれば、それは促しだろう。刺激と促しは似て非なるものである。刺激というのは、それが外側からもたらされることによって、何からしらの反応が私たちに生まれるだけである。つまり、刺激というのは一過性のものなのだ。

一方、促しは外側からもたらされた後も、内側の中に留まり続け、内側の働きを継続的に推進させる力を持っている。これは極めて大きな違いだと思う。そして、刺激というのもは一過性のものであると同時に、外側から内側を押すような感覚質を伴っている。

一方、促しは外側から内側に入り、内側から外側へ自己を押すような感覚質を伴っていることに気づく。自己の成熟の本質は、内側からの展開であるということを考えると、一過性の刺激をいくら求めても内側の成熟は起こらないのだ。

真に自己を深めていくためには、永続性のある内的促しが不可欠になる。そのように考えると、今の私は、仮に刺激が偶然もたらされることはあっても、意識的にそれを求めるようなことはないことに気づく。自分が求めているのは内側の自己展開を呼び起こす促しなのだ。

だが、促しを真にもたらしてくれるものがこの世界にいかに少ないことか。あるいは、促しを装った偽物と偽者でいかにこの世界が埋め尽くされていることかを思い知らされる。真に促しをもたらす他者や書物とニセモノを見分ける感覚が少しずつ身についてきたように思う。

促しというある意味、外から内へのベクトルと内から外へのベクトルを同時に持つ現象の他に、純粋に内から外へと向かう止むに止まれぬ探究心についても思いを巡らせていた。渡欧する直前、天体物理学に関する書籍や雑誌を集中的に読み込んでいた時期があり、外面的宇宙の仕組みにも関心があることは確かだが、それ以上に、私はやはり内面宇宙の仕組みに関心があることを偽ることができなかった。

それは隠しようのない衝動であり、ごまかしようのない感情である。それは取り繕うことのできない怒涛のような流れである。自分の内側から外へと流れ出る止むに止まれぬ衝動の起源をぼんやりと頭の片隅に入れながら、パーソナリティに関する辞典のような存在である “An introduction theories of personality (1998)”に目を通していた。

何気なく本書を紐解いていると、偶然ながらアルフレッド・アドラーの章が今の自分に必要と言わんばかりに目に飛び込んできた。日本ではアドラーが一時期相当なブームになったということを知っていたが、私はこれまでアドラーの書籍を読んだことはほとんどない。

事前知識がほとんどない状態でアドラーを読んでみると、様々な発見があった。その中でも、「私たちは幼少期に生み出した劣等感を克服する試みに従事するように迫られている」というアドラーの指摘は見逃すことのできない真理を含んでいるように思えた。

というのも、私の中にある内から外へと向かう止むに止まれぬ探究心というのは、間違いなく自分の劣等感と密接につながっており、それは幼少期に形成されたものであると思っていたからである。正直なところ、単に純粋な探究心という言葉では、説明することができないような複雑な塊のようなものが内側にゴロゴロしていることを感じていた。

その塊は一つ一つが火山のようなものであり、純粋な探究心からは生み出されないようなドロドロとした激しさや力強さを持っているのを感じるのだ。そうしたことからも、私は純粋な探究心と劣等感から生み出された複雑な探究心の双方を持って、日々の仕事に打ち込んでいるように思えるのだ。

さらにそこには、アドラーが提唱する「虚構的目的論(fictional finalism)」の要素も絡んでいることに気づく。これは、到達しえない目標に向かって、自己が突き動かされていることを示す概念である。昨年、日本に滞在する中で、自分が超越的な目標物に向かって歩みを始めたのを止めることができなかった、という経験をした。

仮にそうした目標物が虚構であったとしても、そこへ向かっていく形でしか今の自分は生きられないようなのだ。

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