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422. 飛行機雲、書籍、そして三日月


エメラルドブルーの夕刻の空に流れ星のような飛行機雲が流れていく。私は肩の力を抜いて、窓からぼんやりと夕日に照らされた飛行機雲を眺めていた。晴れ渡ったフローニンゲンの夕暮れの空に、その飛行機雲は流れ星のような輝きを放ちながら流れていた。

その美しさに時間を忘れ、私はただこの飛行機雲だけを見つめていた。飛行機雲が流れ星のように見えたのは生まれて初めてのことだった。また、その流れ星のような飛行機雲は、目的地に向かうにつれて、線香花火のようにか細く消えていった。

流れ星のような美しさを放っていた状態から線香花火の灯火のような状態になるまで、時間としてわずか数分だったように思う。この数分の間に、変化の最中にある力強い美と変化の終焉にある繊細な美の両方を見たような気がした。

今日はついに、日本から船便で送った大量の書籍と論文がフローニンゲンの自宅に到着した。国をまたぐ引っ越しでは、毎回ヤマト運輸さんにお世話になっている。海外の引っ越し業者や国内の他の引っ越し業者に比べて、ヤマト運輸さんのサービスは非常に優れていると思う。

それは価格面のみならず、搬送や手続きの迅速さを含めて、非常に優れたサービスを提供していただきいつも有り難く思っている。今回は、わざわざアムステルダムから運搬車を数時間走らせてもらい、荷物を全て無事に届けてもらったのだ。

担当してくださった方曰く、ダンボール一箱あたりの重量が規定の重さをオーバーしており、欧州の業者では搬送を拒否するとのことであった。届けられたダンボールを部屋まで運ぶ際に、本当に腰を痛めかねないと思うぐらいの重さであった。体を壊さないように、その場でダンボールを開け、重たい書籍を取り出してダンボールを軽くした上で自室まで運んで行った。

今の自宅にはエレベーターがなく、螺旋階段があるだけなので、こうした重たい荷物を運ぶのは一苦労であった。今日のフローニンゲンは、もはや涼しいという域を超えて寒いという域に入っていたのだが、ダンボールの搬入によって相当な汗をかいた。数年後、オランダから他の国へ引っ越しをする際は、ダンボールの数を増やし、もう少し搬出・搬入が楽になるようにしたいと思う。

九箱のダンボールを一気に開封し、備え付けの五つの本棚にカテゴリーごとに書籍を並べていった。自分の愛読書が届いた瞬間とそれを本棚に並べている時間は、嬉々とした感情に包まれていた。背表紙を眺めて中身を思い出しながら、次々と書籍を本棚に並べていった。

それぞれの書籍の内容を一瞬にして把握し、それらを自分が思い描く所定の位置に並べていく作業は、どこかジグソーパズルを組み立ているような感覚であった。実際に、書籍がカテゴリーごとにどんどん並ぶに連れて、私の頭の中では間違いなく、大きな活字体の構築物が形成されていたのだ。

カテゴリーごとに複数の概念的ゲシュタルトが形成され、それらのゲシュタルトがさらに大きな一つの概念的ゲシュタルトに変貌していく様子が手に取るようにわかった。無事にジグソーパズルが完成し、一つの統括的ゲシュタルトが形成された瞬間は実に爽快な気持ちになった。

作業後の本棚は、本棚としての役割を果たし始めたと言わんばかりに輝いており、書斎の眺めが壮観なものに変わった。フローニンゲン到着後二ヶ月経った今日から、本腰を入れて文献調査を毎日行うことのできる環境になったと言える。この二ヶ月間は試運転の状態であったため、自分の仕事に関してもはや遠慮することなど一切ないという気持ちに変わった。

自分の探究活動が仮にどこかで行き詰まったとしても、私を救い出してくれる書籍が自分の周りに数多く存在してくれることは、限りなく心強い。何よりも心強い。

作業が全て終わったところで一息ついた。再び窓越しに外の景色を眺めると、オレンジ色の三日月が顔を覗かせていた。月の満ち欠けのリズムは、自分の内側のリズムと疑いようもなく繋がっていることがわかった。2016/10/4

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