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163. ローレンス・コールバーグからカート・フィッシャーへと受け継がれる思想:多様な知性領域に存在する領域全般型の特性


記事162. 発達の論理(developmental logic):ボールドウィン&ピアジェ&ワーナーの観点より」では、ボールドウィン、ピアジェ、ワーナーの功績に焦点を当てながら、発達の論理について紹介しました。それら三人の発達理論の大家から時を経て、ローレンス・コールバーグは彼らの功績を一つにまとめ上げました。

コールバーグは様々な発達理論を一つに体系化し、認知的発達段階を探求する際には三つの分析的なレンズを用いる必要があると述べています。一つ目は経験される事物の普遍的な特性を分析すること、二つ目はそうした経験を表す概念の抽象性を分析すること、三つ目はインプットされる経験とアウトプットされる行動の構造的関係性を分析することです。

コールバーグが指摘する三つの点は、ボールドウィンが提唱したことと非常に似ています。ボールドウィンも思考の対象(一つ目)を分析する重要性を指摘し、思考の対象が実際の行動にどのように影響を与えるか(三つ目)は、概念の抽象性度合いと相対的に異なるものであると述べています。

例えば、コールバーグはモラルの発達段階にこの考え方を採用し、モラルの知性を発揮する能力は物理的な世界を探求する能力と異なると述べています。つまり、それらは異なる世界を対象とした知性であり、それゆえに異なる行動を組成することになります。

しかしながら、理解を難しくしてしまうのは、それら二つの領域に共通する概念の成長プロセスが存在するということです。 実際のところ、コールバーグは多様な知性領域に存在する領域全般型の特性に気づいていましたが、それを深く取り上げることはありませんでした。

その探求を推し進めたのが、ハーバード大学でコールバーグに師事をしていたカート・フィッシャーです。フィッシャーは、脳科学、ダイナミックシステムアプローチ、動物行動学の知見に基づいてダイナミックスキル理論を提唱し、これまでの構成主義的発達論者が成しえなかった発達領域全般に存在する共通の性質を解明しました。

その原型は1980年に出版された論文に掲載されており、フィッシャーは、多様な知性領域で発揮されるスキルの階層的構造がある一定の構造的パターンを持って成長していくことを明らかにしました。LASという発達測定モデルは、まさにフィッシャーの業績を直接的・明示的に採用しているので、もう少しフィッシャーの功績について紹介したいと思います。

最初に、ダイナミックスキルという概念そのものが領域全般型なものであると捉えてください。この点において、多様な知性ラインは関連する認知スキルの集積体であるとみなすことができます。

例えば、道徳的知性の領域は、視点取得脳力や文脈を把握する力など、関連する幾つもの認知スキルを持っています。それゆえに、直面する文脈の数に応じて、さらには与えられるタスクの種類に応じて同じ数の認知スキルが存在することを指摘しながら、スキル理論はそうした認知脳力を精緻に細分化していきます。

与えられる課題が異なれば要求されるものも異なるため、私たちの認知スキルは一つの領域に固有のものだと言えます。さらに、認知スキルは状況に左右されるという「文脈依存性」を持っているため、ある状況における課題を解決することができるからといって、それが異なる状況における別の課題を解決できるとは限りません。

そのため、イメージは梯子ではなく、網の目なのです。私たちには多種多様な認知スキルが備わっており、それらは別々の速度で進化・成長していきます。私たちの認知スキルにはこうした多様性が備わっていますが、すべてのスキルは構築されなければならないという点は共通しています。

つまり、私たちの認知スキルは無から生じるものではないのです。それらは差異化・統合化のプロセスを通じて構築されるものであり、その成長プロセスは抽象性と複雑性の度合いが増していく現象なのです。

この観点は、知性発達という現象をどのように分析し、どのように理解したらいいのかという洞察を与えてくれるでしょう。ボールドウィンの言葉を借りれば、各々の認知スキルは認知内容を規定する「コントロール係数(記事162を参照)」によって特徴付けられており、スキルの発達は発達現象の根底に存在する共通の発達特性に裏付けられているのです。

結論として、私たちの認知スキルがいかに異なっていようとも、それらは差異化と統合化のプロセスを通じて構築されるものであるということに変わりはありません。

【追記:カート・フィッシャーの優れた論文紹介】

東京は本日も雨ですね。米国生活最後の1年間は南カリフォルニアで生活をしており、日中に雨が降っているのを見たのは数回程度でした。一時帰国中の現在、日本では数十回以上雨を見ており、南カリフォルニアの5年から10年分ぐらいの雨の恵みを感じさせてもらっています・・・

さて、上記で言及した1980年に出版されたカート・フィッシャーの論文 “A Theory of Cognitive Development: The Control and Construction of Hierarchies of Skills “は極めて優れた傑作だと言えます。フィッシャーのダイナミックスキル理論の原型である「スキル理論」について自己学習を望まれる方は、ぜひ上記の論文に目を通していただければと思います。

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