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108. ロー・パフォーマンス組織で見られる思考の停滞現象とアトラクター:「クォークの父」マレー・ゲルマンの観点より


ここ数回の記事では、ハイ・パフォーマンス組織でおこなわれている会議の発話パターンの特徴について紹介しました。今回の記事は、それらの発見事項のまとめも兼ねて、その他の興味深い発見事項を紹介したいと思います。

私の知る限りでは、世界中を見渡してみても、ダイナミックシステム理論だけを専門的に学ぶことができる大学院というのは存在しません。その理由の一つとして、ダイナミックシステム理論は、数学の一領域であるため、それのみに特化した大学院プログラムを提供することが難しいということが挙げられると思います。

しかし、幸運にも、複雑系の研究メッカであるサンタフェ研究所(Santa Fe Institute)は、「Complexity Explore」というウェブサイトで、ダイナミックシステム理論を無料で学べるオンラインプログラムを提供しています。私もこのオンラインプログラムに大変お世話になり、全てのコースを繰り返し学習するほど、Complexity Exploreのプログラムは興味深いコンテンツを提供しています。

コースの中には、数学を全く使わないものもあるので、数学アレルギーがある方でもダイナミックシステム理論の全体像を掴むことができます。それらのコースは、ダイナミックシステム理論の多様な概念を取り扱っているので、ダイナミックシステム理論の基礎的な理解を深めるのには最適です。

サンタフェ研究所の設立者の一人で、ノーベル物理学賞を受賞し、「クォークの父」と呼ばれるマレー・ゲルマンは、システムの運動がある点に収束してしまう地点「アトラクター」と人間の思考に関して興味深い発言をしています。ゲルマンは「アトラクターは、人間の思考において、思考が滞ってしまう状態と形容でき、そこから抜け出すことが困難な状態に喩えることができる」と述べています。

私もゲルマンの見解に賛同しており、人間の思考は複雑系であるため、思考空間におけるアトラクターとは、まさしく思考が停滞している状態だと言えると思います。例えば、ピアジェが主張した「発達における均衡状態」やロバート・キーガンの「発達的葛藤状態」は、人間の心の発達におけるアトラクターとみなすことができます。

こうしたアトラクターという現象は、何も個人だけに見られるものではなく、組織においても見受けられます。それはまさしく、マーシャル・ロサダが発見した「ロー・パフォーマンス組織では、会議の対話パターンが単純なアトラクターを示す」という点に現れています。

アトラクターは、個人の思考や行動を制限し、組織発達の停滞要因となるため、それらを乗り越えていく手立てを打つ必要があります。

【追記】:アトラクターと一言で述べても、実際には様々な種類のアトラクターが存在します。「バタフライ効果」で有名なエドワード・ローレンツが発見したのは、複雑な「カオス的アトラクター」と呼ばれるものであり、上記の記事で紹介した「単純なアトラクター(ポイント・アトラクターなど)」とは特徴が異なります。

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