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3807. 死の拒絶と死の隠蔽が蔓延する現代社会


時刻は午後の六時を迎えつつある。これから日記を書き留め、その後、入浴をしながらリラックスしたいと思う。

先ほど、創造活動と死の関係性について言及したが、この主題をさらに深く探究していく際には、アーネスト・ベッカーの書籍と、さらには、オットー・ランクの“Art and Artist: Creative Urge and Personality Development (1989)”が参考になるかもしれないと思い、こちらの書籍も本棚から引っ張り出してきた。

ちょうどその本に対する推薦文は、ベッカーが執筆しており、やはりランクとベッカーの関心は共通したものがあったのだろう。そしてそれは即、私の関心とも合致していることを示す。

現時点では、人間が行う創造活動には二つの方向性があり、一つは死の拒絶のためにそれを行うというものと、死と対峙し、それを乗り越えていく、ないしは死を昇華し、死を生と調和させるために創造活動を行うという方向性がありそうだ。

現代社会の創造活動のほとんどは、前者に該当するように思われる。そしてそれは、物質資本主義的な消費活動と癒着しているという点にも注目をする必要があるだろう。

おそらく、創造活動と死に関するテーマを探究していくためには、現代の社会・文化的な特性、とりわけ経済活動の特性について理解を深めていくことが不可欠だろう。確かに私は学部時代に経済・経営を学んでいたが、学部時代で学んだ知識は有益でありながらも、そうした知識では今の関心事項の探究をするにはあまりにも物足りない。

経済をいかような角度から探究していくかはほぼ明確になっているので、あとは良書を見つけ、関連書籍の網の目を辿っていくように探究を進めていこうと思う。

これから現代の諸々の創造物、さらには過去の諸々の創造物を眺める際には、その背後に死の拒絶の匂いがするのか否かを意識したいと思う。人間が生み出す形のほとんどは、死の拒絶が背後に隠れたものなのかもしれないが、そうではないものも必ずあるはずだ。

そうでなければ、自分がこれから一生涯にかけて行っていく創造活動の意味的基盤が溶解してしまう。死の拒絶を超越した創造活動とはいかなるものなのか。その特質について探究を進めていく。

ベッカーの書籍を読み進めていると、いくつも洞察に溢れる考えが紹介されており、つい先ほどは、「自己陶酔的資本主義(narcissistic capitalism)」という言葉に目が止まった。これは端的には、資本の多寡と力を同一視する発想のことを指す。

しかしこれは、単に資本の多寡のみならず、例えば知識の量などを含めて、他の無形のシンボルにも該当することなのではないかと思った。おそらく、こうした発想の枠組みがこの現代社会に蔓延していることによって、人々は絶えず他者に対して嫉妬や妬みの感情を覚えるのかもしれない。

そもそも、妬みや嫉妬の背後には、ベッカーが指摘するように、自分が貶められることへの恐怖があり、その根底には生存の危機への恐怖があるのだろう。これもまた、死の恐怖と密接に関係している。

そうしたことを考えてみると、社会では頻繁に、マスメディアやソーシャルメディアを通じて、何かに優れている人の功績を世に知らしめることを行っているが、これはもしかすると、人々が不可避にもつ「自分が貶められることへの恐怖(端的には劣等感)」を助長し、妬みや嫉妬を増幅させることにつながっていると言えるかもしれない。

そうした動きの一方で、マスメディアやインターネットの世界では、自己を肥大化させることを推奨するような甘言と提言で溢れていることも窺える。そうした事態が見えてくると、この社会は、自己の肥大化と自己の矮小化という二つの矛盾したものを同時に私たちに突きつけていることがわかってくる。

そうした矛盾を引き起こすメッセージや文化的コードが絶えず産出されている様子は、本当に奇妙であり、不気味ですらある。

自己の肥大化と自己の矮小化も共に、死の拒絶と密接に関わっていることを考えると、この現代社会において、真に死と対峙すること、死を昇華して人生と調和させることが極めて難しいことが見えてくる。

この現代社会は、霊性が枯渇しているだけではなく、根本的には死が不在なのかもしれない。そこにあるのは偽装的な死と、死の重要な側面と貴重な価値を隠蔽する活動だけなのではないかと思えてくる。

そのように考えると、現代社会は、真の意味での死を体験することができず、真に自らの人生を生き切ることが極めて難しい社会だと言えるかもしれない。フローニンゲン:2019/2/10(日)18:17

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