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3785. 書くことと発達:テクノロジーの進化と人類の平準化・家畜化


時刻は午後の八時に近づきつつある。つい先ほど、夕食を摂り終えた。

今は雨も止み、静けさの佇む世界が広がっている。そんな中、書斎にはバルトークのピアノ曲が鳴り響いている。

夕方から、バルトークの音楽を聴き始めた。そうした音楽に加えて、ギリシアのデルフォイのアポロン神殿の入口に刻まれた言葉、「汝自身を知れ」という言葉が聞こえてくるかのような感覚があった。

そして、画家のエドヴァルド・ムンクに多大な影響を与えた、ノルウェーの著述家ハンス・イェーガーの「汝自身の人生を著せ(しるせ)」という言葉が聞こえてくるかのようであった。

今日も随分と雑多なことを日記として書き留めていたように思う。だが、そうした雑多なことも、自らの人生を著述し、人生を刻んでいることに他ならない。

言い換えれば、日記を執筆することは、自らの人生を創造することである。いやもっと言えば、日記の執筆は、自らの人生を生み出す根源とつながることを促す実践だと言えるだろう。

日記を書くことの意義については、これまで何度も様々な観点で書き留めていたと思う。先ほどは、夕食を食べている時に、食卓の窓越しに外を眺めながら、その意義について改めて考えていた。

あまり多くの観点をここで繰り返すことはしないが、一つには、言語哲学的な観点から考えると、言語の分節化機能を活用する形で自己を記述していくことによって、発達的な差異化が起こるということだ。

言語を用いてある対象を記述した瞬間に、それは記述されなかったものとの境界線が引かれることになる。それは確かに二分法的な特質を持っているが、それは言語が内包する不可避の性質であるから如何ともしがたい。

しかし、発達というのは差異化と統合化のプロセスであるから、言語を用いて自己を著述することによって差異化を促していくというのは、書くことの一つの意義だろう。そして、文章を書くことによって思考や感情、さらには身体感覚が整理されるような感覚を味わったことは誰しもがあるだろう。

それはまさに、言語には分節化の機能のみならず、思考や感情、そして身体感覚すらも統合していく機能があることを表している。自己を深めていく際には、必ず差異化と統合化を経験していかなければならず、文章を書くことは——今回は触れないが、いかなる内容をいかに書くかということも実は極めて重要である——、そうした差異化と統合化を促進するという意味において、自己を涵養し、人生を深めていく手段となりうる。

そしてもう一つ、ロバート・キーガンが述べるように、発達とは主体・客体のプロセスであり、これは上述の言語の特性から考えると分かりやすく、自己を対象にして文章を書くことは、主体を客体にしていくことに他ならない。

ここで主体とは、これまでの自分が気づけていなかった自己の側面だと考えるとわかりやすいだろう。そうした側面に認識の光を与え、それについて言葉を当てていくことは、客体化を行っていることに他ならない。自己を対象に文章を執筆していくことが、自己変容的な作用があるというのは概ねそのような理由による。

夕食を摂りながら考えていたもう一つの雑多な事柄は、テクノロジーの進化と人間発達に関することだ。世間一般には、テクノロジーの進歩が人間の進化を促進すると思われているようだが、私はそうした側面も認めながらも、同時に正反対の側面についても考えている。

テクノロジーの進歩は下手をすると、人間をますます平準化し、家畜化していく方向に活用されていくのではないかと思っている。実際にそれは、ソーシャルメディアの普及によって顕在化している問題であり、そこに既存のマスメディアという愚民化・家畜化の仕組みがあるのだから、人間の平準化と家畜化は、今後ますます加速化されていくのではないだろうか。

しかも、そうしたテクノロジーを通じて、この世界はますますグローバル化されているのだから、人間の平準化と家畜化は局所的に進行するというよりも、グローバルに展開されていくように思えてしかない。そしてこれは、もうどうしようもないほどに起こっている。

そしてたちが悪いのは、現代人の大半はすでに平準化・家畜化された存在に成り果てているのだが、ここでも巧妙に、そうした事実が隠蔽される仕組みがテクノロジーを通じて構築されており、人々は自らがもはや人間らしい生を営んではいないことに気づけなくなっているのだ。

日々刻々と、人間が物質化され、平準化され、家畜化されていく。現実にそのようなことが起きているがゆえに、私はテクノロジーの進歩を手放しに喜ぶことはできないし、テクノロジーの進化を通じて人類の進化を謳うような馬鹿げた論調にも賛同できない。フローニンゲン:2019/2/6(水)20:09

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