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980. 第二弾の書籍に持たせた一つの役割:日本で普及しつつある「意識の発達理論」の盲点と幻想


先ほど夕食を摂りながら、今回の第二弾の書籍に込めた意図について思いを巡らせていた。書籍を執筆する際には、著者の中に必ず何かしらの主題があり、表現したいものがある。

前回の作品においても私なりの主題があり、主題を持つというのは今回の作品においても同じである。改めて今回の作品に込めた想いが何であったのかを振り返っていた。

今回の作品は、前作以上に主張したいことや伝えたいことが多岐にわたっているのだが、一つには、現在日本で普及し始めている成人発達理論を取り巻く動向に対して警鐘を鳴らすような意図があったように思う。

ロバート・キーガンの書籍『なぜ人と組織は変われないのか』が翻訳出版されたのは、2013年のことであり、今から4年前に該当する。また、成人発達理論に関するその他書籍としては、2016年のほぼ同時期に『行動探求』と拙書『なぜ部下とうまくいかないのか』が出版されている。

成人発達理論を取り巻く日本の動向を眺めた時、それが認知され始めたのはまだ4年前のことであり、直近に出版された二冊に至っては昨年に世に出されたものである。成人発達理論は日本において導入の黎明期にあることは間違い無いだろう。

そうした中、私は今回の作品を通じて、日本で普及しつつある成人発達理論の盲点を指摘するような試みをしようとしていた。人間の発達のみならず、理論や思想の発達において、対極的なものを取り入れることは非常に大事である。

日本で普及し始めた成人発達理論に欠けている観点、あるいはそれとは対極的にある発想を紹介することによって、これから成人発達理論が日本で健全に発達していく土壌のようなものを今回の作品を通じて提供したかった。 現在、日本で広まりつつある成人発達理論の盲点は、実際のところ多くの論点に及ぶのだが、一つ取り上げるとすれば、「意識の発達」という現象を過大に解釈してしまっていることである。上記で紹介した書籍の著者であるキーガン、トーバートを始め、日本でも知られているアメリカの思想家ケン・ウィルバーの発達理論は、基本的には「意識の発達」という括りで紹介されることが多い。

実際に、彼らが主に対象としている発達領域は、自己認識や他者認識を司る領域である。端的に述べると、現在の日本で見受けられる誤解は、意識の発達が高度化されれば、様々な能力——例えば「実務能力」——が向上するのではないか、というものである。

これは大きな誤解であり、幻想である。意識の発達と個別具体的な能力の発達との間に、強い相関関係があることを示す実証結果は今のところ存在しないのだ。第一弾の作品の中でも紹介したように、キーガン、トーバート、ウィルバーたちが提唱するところの意識の発達段階というのは、建物のどの階層にいるのかを示すものである。

確かに、建物の階層が上がれば上がるほど、そこから眺めることのできる範囲は拡大する。その結果、自己や他者、そして取り巻く環境などをより俯瞰的に捉えることを可能にするのは確かだ。その重要性は否定されるべきものではない。

しかし、現実世界において重要なのはそれだけではないだろう。建物のどの階層から世界を眺めるかだけではなく、その階層で世界と具体的にどのように関与するかが等しく大事なのだ。

例えば、ある人物が発達段階4という4階のフロアから世界を眺めている際に、その場所で世界を眺めることだけには意味はなく、4階というフロアの中で具体的にどのような実践活動を営み、そのフロア内でどのような個別具体的な能力を発揮するかが等しく重要なのだ。

単に世界をある階層から眺めることは、世界への真の関与とは言えない。実際にその階層の中で具体的な活動に従事し、具体的な能力を発揮しながら世界と関わっていくことが、世界への真の関与なのではないだろうか。

現在、日本で広まりつつある成人発達理論には、とりわけ個別具体的な文脈において発揮される能力に対する発想が非常に希薄なのだ。その結果として、意識の発達段階が高まれば、個別具体的な能力が高まるのではないか、という淡い期待を強く醸成することになってしまっているのだ。 日本で普及しつつある成人発達理論が抱えるこのような盲点に対して、第二弾の作品の中で主に取り上げるカート・フィッシャーの発達理論は対極的な発想を私たちに提示してくれる。

ここではフィッシャーの理論を詳しく説明することを控えるが、彼の理論はまさに、個別具体的な文脈において培われる能力の重要性を指摘するものであり、そうした能力がどのように発達していくのかを明らかにするものである。

今回の作品を通じて、現在広まりつつある成人発達理論に欠落している観点を紹介すると共に、建設的な批判を加えようとした背景には、冒頭で述べたように、日本の社会の中で成人発達理論が健全に発達していくためには、対極的なものを絶えず取り入れ、それらをぶつけ合いながら両者を成熟させていく必要があると思ったからである。2017/4/24

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