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6. ダイナミックスキル理論の根幹思想「動的構造主義」とは?:ピアジェの古典的構造主義とチョムスキーの説明モデルとの違い


今回の記事は、ロバート・キーガンやオットー・ラスキーが持つ「構成主義的発達理論」とは一風異なる「動的構造主義」について紹介します。「構造主義」と言えど、ピアジェやチョムスキーの構造主義的枠組みとは大きく異なる点があり、その差異を紹介していきたいと思います。

発達論者の多くが、心の構造を静的なものとみなしてしまうのは一体どうしてでしょうか?一つの理由として、多くの理論家が構造(structure)を形のある型(form)や枠のようなものと混同していることが挙げられます。ピアジェは心の構造を静的なものとする理論を提唱していたのですが、一見すると静的に思われるピアジェの構造理論の裏には、構造を関係性の産物と見る思想が隠れていました。

別の表現で言えば、ピアジェは心の構造を生物学的有機体や心の活動が組織化される複雑なシステムと捉えていました。これらの複雑なシステムは、常にバランスあるいは均衡を保ち、その均衡は全体のシステムを構成するサブシステムの絶え間ない活動によって維持されています。

冒頭で述べた形のある型(form)は、構造から抽出される固定的なパターンのことを指します。例えば、人間の身体は細胞レベルでの構造を持っており、それが私たちの身体という「形」を作り上げます。「型」あるいは「形」という概念は、動的な構造の一つの特徴・側面を記述する際に用いられます。

実際に、現実世界において、私たちは構造から生み出される「型」や「形」に注目し、様々な現象や多くの異なる物体の共通点や差異を明らかにしています(リンゴとみかんの共通点や違いなど)。

しかしながら、構造から抽出された型や形が現実世界を描写する際に、リアリティそのものと混同してしまうという問題が生じます。私たち人間は、諸現象の中に存在するパターンを見つけようとする(あるいは期待する)思考特性を持っています。

例えば、内向的や外向的などと分類する性格類型などが代表例です。私たちは他者を決められた型(内向的や外向的など)に無意識的にはめ込もうとする思考特性を持ち、他者がその型に当てはまってくれることに淡い期待を寄せます。もちろんこうした傾向は科学者の中にも見られます。

この問題に関して、論理的な誤謬は明らかであり、そのような型や形が様々な現象や物質に見られる共通のパターンを抽出したものであり、パターンを生み出す構造そのものを説明するものではないということです。

こうした混同は、しばしば発達論者や教育関係者に大きな混乱をもたらしました。例えば、子供がある発達段階に到達し、あるタスクをこなすことができていたのに、同様の他のタスクをこなすことができない際に、なぜそのようなことが起こるのか説明がつかないというケースが見受けられます。

これは表面的に浮かび上がるパターンに囚われ、その下に隠れる可変的な構造を考慮していないことから生じます。

こうした状況を鑑みて、動的構造主義では、心の発達に内在する複雑性を認識すること、そして思考や行動を生み出す動的なシステムを構築する人間の本性を認識することからスタートし、静的な構造モデルに代わる説明モデルを私たちに提供してくれます。

動的なシステムを構成する様々なシステム間の関係性を排除したり、無視したりするのではなく、動的構造主義は複雑なシステムに見られるパターンを分析するためのツールを提供すること、つまり思考や活動を生み出すシステム間でどのようにして人間が新しい関係性を構築していくのか、それを説明するための分析ツールを提供することを目指しています。

人間の行動が内包する動的な構造を分析することによって、複雑性を切り捨てること無く説明を簡素化することが可能になり、システム間を構成する本質的な関係を特定化したり、人間の様々な活動や発達過程を説明することを可能にします。

それゆえに、動的構造主義は、ピアジェの古典的な構造主義やチョムスキーの説明モデルのような、心の構造が持つ動的な側面を蔑ろにしてしまった静的な理論的枠組みとは一線を画します。

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