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3033.【北欧旅行記】北欧の空の上から


ストックホルムへ向けた飛行機が離陸し、今私は空の上にいる。私は普段、フローニンゲンの自宅の書斎の窓から空を眺め、外に出かける時も大抵空を見上げることが習慣になっている。

今この瞬間の私は、普段見上げている空を眼下に眺めている。普段見ているものを違った次元から眺めることは、不思議な感覚をもたらしてくれる。これまで気づかなかったようなことにハッと気づかせてくれるような、そんな驚きをもたらす感覚がここにある。

昨夜は来月末のボストン訪問に向けた各種の予約をしていたことと、今朝は今日からの旅行に向けた荷造りに時間を取っていたため、出発前に自宅で日記を書く時間が十分になかった。いつも旅行に出かける時は、出発前に幾つか日記を書き留め、旅行に向けて心を整えるのだが、それが今日はあまりできなかったように思う。

もちろん、最低限の文章を書き留め、スキポール空港に向かう列車の中でも日記を書いていたが、自宅を出発する前に諸々のことを整理しておく必要があったように思う。実際にスキポール空港に到着した時に感じていたのは、どこか身体だけ空港に移動してしまったかのような感覚であった。

「心ここに在らず」という言葉が示すように、自分の心はまだ北欧旅行の中になかったように思う。それに気づいてからは、心を今ここに戻すように意識をした。

空港のラウンジでゆっくりとくつろぎ、これから始まる旅に向けて心を落ち着けていった。そのおかげもあり、今は随分と今ここにあるような感覚がする。

毎日がライフワークの中にあり、毎日が休暇であるという生活。こうした生活が実現されていることは本当に有り難いことである一方で、そうした生活を真に意味のあるものにしていくためには、そしてさらにそれを深めていくためには、常に自己規律と自己克己が必要になる。

つまり、今のこの生活を継続させていくためには、弛緩でも緊張でもなく、両者が均衡し、その均衡点の上にある青空のような感覚的境地が必要になる。さもなければ、こうした生活は堕落に陥るか、自己耽溺に留まるだろう。

飛行機の窓の外には、真っ白な雲海が広がっている。雲海の上には空しかない空がある。

「空しかない空がある」を眺めていると、「空(くう)」の感覚が身体に流れ込んでくる。それはないのだがあり、あるのだがない、という矛盾した無矛盾の真実を教えてくれる感覚だ。

ストックホルムに到着するまであと一時間を切っただろうか。これから始まる北欧の旅を通じて、私は何を見て、何を感じ、何を学ぶのだろうか。欧州での生活も三年目を迎えたが、毎日が本当に未知との遭遇だ。

そうした日々の中にあって、旅が開示してくれる未知なるものは、私の内側をさらに開いたものにしてくれる。人間発達の要諦は、未知なるものとの遭遇による「自己開放」であり、そこからの「自己解放」にあるのだと思う。

確かに今日も一人の人間が、一人の日本人がこの地球上で生きている。それを今私は感じている。北欧上空:2018/8/25(土)16:13

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