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2585. あの世からの手招き


時刻は夕方の七時半を過ぎた。爽やかな風が吹き抜ける土曜日の夕方。

今朝は雲が空一面を覆っていたが、昼過ぎから急に晴れ間が見え始めた。太陽の光が地上に降り注ぎ始めたのに呼応して、小鳥たちが元気よく鳴き始めたのを覚えている。今も耳を澄ませてみると小鳥たちの歌声が聴こえてくる。

午前中から午後にかけて論文の加筆修正を行い、無事に今日のノルマを達成した。明日の午後にもう一度見直し、ここまでのドラフトを論文アドバイザーのミヒャエル・ツショル教授に送ることにする。

先ほど夕食を摂りながら、「初夏の雰囲気が漂うこの時期は、あの世からの手招きを受けやすいのかもしれない」ということをふと思った。というのも、昨年のこの時期を思い出してみると、私は突然に埴谷雄高氏の『死霊』という形而上学小説に多大な関心を示し、オランダに来て初めて日本のアマゾンからその書籍を注文した。

現在においても、この二年間においてオランダにいながら日本から取り寄せた書籍はそれ一冊しかない。食卓の窓から見える景色をぼんやりと眺めていると、昨年の夏に没頭するかのようにその作品を読み進めていたことを思い出したのである。

そこから派生して、ここ最近の私が意識の形而上学に再び関心を示していることについて考えた。今日はこれからシュリ・オーロビンドが執筆した書籍を読み進めていく。本書もまさに意識の形而上学の範疇の内容を扱っている。

また、オーロビンドに加え、ヘレナ・ブラヴァツキーとルドルフ・シュタイナーの書籍もここ最近読み始めていることも何かの予兆かもしれない。ブラヴァツキーとシュタイナーは、私が街の古書店で購入した書籍以外にも大変興味深いものを何冊も出版しているため、今日か明日の夜に吟味した書籍をもう7冊ほど購入しようと思う。

初夏が近づくこの時期は、あちらの世界から何か手招きをされているかのように感じる。手招きに応じる形で、意識の形而上学に関する理解を再度ここで深めていく。

辿られる記憶の時間が前後左右する。今日は夕方から、バッハの曲を参考にしながら作曲実践を行った。

これから少し手直しをすれば、とりあえず一つまた新たに形が生まれたことになる。内的感覚を音楽言語を通じて形にしていくこと。これからより一層実践と考察を重ね、自分の文体とも呼べるような作曲語法を構築していく。

昨夜就寝前に、偶然にも辻邦生先生の『パリの手記:海そして変容』を手に取った。この書籍は私にとって大変思い入れのある一冊である。この手記はそもそも、辻先生が今の私と同い年の頃にフランスに渡った時の日記が元になっている。

今から二年半前、私が欧州に渡る準備をし始めている頃からこの手記を読み始めた。そして、欧州の一年目の生活の期間において、この手記を深く読むことによって私は随分と励まされた。

あの頃の私は、辻先生のこの一連の手記と森有正先生の日記に支えられていた。この夏、私はまたこの手記を読み返す予定でいる。今年の北欧旅行に持って行ってもいいかもしれない。

全五巻に及ぶ辻先生のこの手記を再度繰り返し読んでいく。お互いに生活をしている場所も異なれば、時代もまるっきり異なる。

この一連の手記が書かれたのは、今からもう60年以上も前のことである。だが、時代も場所も超えて、この手記には私の心を捉えてやまないものがある。

一人の人間が自らの使命に気づき、激しくその生を生きること、そして生きることの中に充実感と幸福感を見出すことは時代も場所も関係ないのだろう。フローニンゲン:2018/5/19(土)19:56

No.1026: Something to Start

I’ll leave for London in an hour and a half. My expectation for a six day five night trip is rising. Groningen, 06:05, Wednesday, 6/20/2018

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