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2571. 幸福はその時の中に


幸福というのは、いつも私たちのすぐ近くにある。幸福は人との関係性を通じて生まれるものである、ということを感じさせてくれるような日であった。

今日は午後に、先々月からお世話になっている美容師のメルヴィンに髪を切ってもらった。前回初めてメルヴィンに髪を切ってもらったが、初回からお互いに意気投合し、今日も非常に充実した時間を過ごすことができた。

つくづく私は、メルヴィンに単に髪を切ってもらうために彼のところを訪れているのではなく、彼との対話を楽しみにしていることに気づく。彼は社会的な職業は美容師だが、生粋の哲学者だと私は思う。

「哲学者」と述べると仰々しいが、間違いなく彼は自分の思想を自ら育んだ一人の思想家であることは間違いない。私は、メルヴィンのような思想的実践家のあり方に深く共感する。

メルヴィンの観点はいつも面白く、それでいて深い。今日は彼から、インドネシアのここ数十年の文化的変化——メルヴィンはインドネシア系オランダ人である——、昨年の夏に訪れたコスタリカの自然と国民の生活思想について話を聞いた。

それ以外にも私たちはたわいのない話題についても話をした。メルヴィンとのこうした対話は、人とのつながりの上に成り立つ人間として生きることの幸福感を感じさせてくれる。

もう一年ほど私がフローニンゲンに残ることを伝えると、メルヴィンは満面の笑みを浮かべながらガッツポーズをした。それを見て私も嬉しく思った。

私は異国の地でなんとか生きている。いや、これまでの人生で最も充実した日々を過ごしていると言っても過言ではないほどに、この地で生きることに幸福感を覚える。

それはフローニンゲンで生きることに伴う幸福感だけではなく、この地上で人間として生きることの幸福感だと言えるかもしれない。よくよく考えてみると、「これまでの人生で最も充実した日々を過ごしている」というのは当たり前かもしれない。

私たちの幸福は今という瞬間に見出されるものであり、この瞬間が最も幸福であるという実感を持って生きることが自らの生の本質につながった生き方だと思うからだ。

来年の春にメルヴィンは日本を訪れる計画を立てており、現在少しずつ日本語を学んでいる。彼に日本語で挨拶をして、私は店を後にした。

その後私は、昨日に引き続き、街の中心部にある古書店に向かった。昨日吟味することのできなかった美学に関する哲学書を求めて、今日もほぼ同じ時間に古書店についた。

昨日の日記では名前を書いていなかったかもしれないが、私の行きつけの古書店はIsisという。店主のテオさんと奥さんの二人で経営をしている古書店だ。

:「テオさん、こんにちは」

テオさん:「あぁ、おかえり!」

店主のテオさんは満面の笑みを浮かべてそのように述べた。「おかえり」という一言がどれほど私の心を安らかにしてくれただろうか。

昨日私はブラヴァツキーやシュタイナーの書籍とシュリ・オーロビンドの書籍を購入した。今日は美学関連の書籍を購入しようと思っていたが、まず最初にテオさんに詩に関する書籍が置かれているコーナーを教えてもらった。

マラルメの詩集を購入したいと思ったが、それはフランス語であり、リルケの詩集もまた原語のドイツ語だった。原語で彼らの詩集を読みたいところだが、今の私には原語で読めるほどの言語力はない。

おそらく英語であっても理解が難しいだろう。どうやら英語の翻訳もないようなので、しばらく詩に関するコーナーの本棚を眺めたところで美学書のコーナーに移動した。

そこで一時間ほど書籍を吟味していると、一人の初老の男性が私に声をかけてきた。どうやら馴染みの客らしく、先ほど店主のテオさんと長く談笑している姿を見かけていた。

初老の男性:「XXXX, XXXX. XXXX?」

:「Kunt u Engels spreken?(英語話せますか?)」

初老の男性:「あぁ、申し訳ない。随分と熱心に書籍を選んでいるなと思ってね。さっき、テオのところに購入予定の書籍を持って行っていたでしょう?その背表紙を見たが、実にいい眼を持ってるね」

:「そうですか、どうもありがとうございます。この店には美学に関するいい書籍がたくさんありますね」

初老の男性:「私はこの店に長らく通っているが、ここにはいい本がたくさんある。おっと、書籍を選ぶ邪魔をしてしまったね。ではまた」

私は美学に関してこれまで本格的に探究をしたことはないが、もうそれを学ばなければ前に一歩も進めない必然性を感じている。美学には、自分の探究活動と創造活動をこれまでにはない形で深めてくれると信じてやまないものがある。

本当に藁でもすがる思いで飛びついたのがこの領域であった。吟味に吟味を重ねた結果、ぜひともそれらの書籍と共に自らを深めていきたいと思わせてくれる古書が随分と見つかった。それらの書籍との出会いも嬉しかったが、何気なく声をかけてきてくれたその男性との対話にも嬉しさを感じた。

結局今日も閉店間近まで古書店におり、最後の客は私だけになった。店主のテオさんからニーチェの哲学に若い頃に傾倒していた話を聞き、私が普段から感じている現代社会の精神病理について一緒に話をした。

出島を起点した日本とオランダの交友関係については以前も話をしたことのあるテーマだったが、テオさんと話をしていると同じ話題でも何かと発見や励ましがある。一冊の書籍との出会いもさることながら、一人の人間との対話の中に生きる至上の喜びがある。フローニンゲン:2018/5/16(水)20:25

購入書籍

美学

1. Art and Philosophy: Readings in Aesthetics (1964)

2. Inquiries into the Fundamentals of Aesthetics (1974)

3. The Foundations of Aesthetics (1978)

4. Aesthetics: An Introduction to the Philosophy of Art (1987)

5. Definitions of Art (1991)

6. The Art of Living: Aesthetics of the Ordinary in World Spiritual Traditions (1995)

7. The Gift of Beauty: The Good as Art (1996)

8. Philosophical Aesthetics: An Introduction (1992)

9. In Defense of Humanism: Value in the Arts and Letters (1996)

その他

10. Ancient Greek Music (1992)

11. What is Life? Mind and Matter (1967)

12. Madness & Civilization: A History of Insanity in the Age of Reason (1965)

13. Helmholtz: From Enlightenment to Neuroscience (2010)

14. The Sociology of Georg Simmel (1950)

15. The Timeliness of George Herbert Mead (2016)

16. Bird Relics: Grief and Vitalism in Thoreau (2016)

No.1020: Comparative Study on Artistic Development

Although this may look like a doctoral study, I want to examine the artistic development of Beethoven and van Gogh.

The research material would be their letters. I’m not so interested in quantitative research on this theme but very intrigued by qualitative research on it. Groningen, 10:16, Friday, 6/15/2018

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