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1332. 複雑性科学を活用した発達研究について


昨日に引き続き、今日もグレン・グールドが演奏するバッハの楽曲を聴く。しばらくは、この異質なピアニストの演奏を聴く日々が続きそうである。

書斎の窓越しに外を眺めると、一日のうち最も強い日差しを持つ太陽光が辺りに降り注いでいる。日本で生活をしていた頃や米国で生活をしていた頃は、緯度の関係上、日中最も日差しが強いのは午後二時あたりだとみなしながら生活を続けていたが、緯度の高いオランダ北部のこの街では、最も日差しが強くなるのは午後の四時あたりだ。

ちょうど今がその時間帯である。窓のカーテンの大部分を閉め、書斎に差し込む強い日差しを遮断することにした。

しかし、カーテンによっていくら太陽の光が遮断されようが、その光が自分の内側に絶えず差し込み続けているという感覚が失われることはない。自分の内側には消えることのない光が灯り続けていることを知る。 夕食までの仕事に取り掛かる前に、再度今日のオンラインゼミナールについて振り返っていた。受講者の方から非常に優れた質問があり、それは発達現象を説明する際に複雑性科学が果たす役割についてである。

能力の成長について考える際に、一つの能力を構成する要素を特定し、それらの相互作用を考えることは、研究においても能力開発の実務においても重要になる。だが、一つの能力全体を部分に分割するというアプローチは一見すると還元主義的な、あるいは旧態依然とした科学的アプローチに見えるかもしれない。これは確かにそうだと思う。

しかし、複雑性科学のアプローチを活用する際に重要なのは、全体を要素に分割して考えるということに留まるのではなく、そこから再び全体への統合を図る思考が伴うことである。第二弾の書籍では言及することができなかったが、一つの能力を構成するサブ能力が全体としての一つの能力と相互フィードバックを与え合っている現象のことを「循環的因果」と呼ぶ。

能力の複雑な現象や成長プロセスを考える際のポイントは、フィードバックループの一方を捉えるのではなく、双方を捉えることにある。また、複雑性科学にも人間の発達と同様の原理を適用することができる。

それは「含んで超える」という根本原理だ。つまり、複雑性科学も既存の科学を含んで超えて生まれたものであるがゆえに、これまでの科学の持つ特性を引き継いでいるのだ。

その一つが、分析を強みとする「分けて考える」という発想だろう。実際に、複雑性科学の手法を活用しながら発達研究に従事している時に、この「分けて考える」という科学の本質的な思考方法は大切になる。

特に、概念モデルや理論モデル、あるいは仮説モデルを構築する際にこの思考方法がカギを握る。モデルというのは、現象そのものや現象の全てを把握するためにあるのではない。

モデルは現象の本質を捉えるためにあるのだ。言い換えると、発達研究においては、発達現象のプロセスやメカニズムの本質的な要素を抽出し、それらの要素の関係性を考えることによって、プロセスやメカニズムの本質を捉えようとするものが「モデル」と呼ばれる。

こうしたモデルを構築するためには、発達現象を生み出している要素を特定しなければならない。そして、要素を特定する際に力を発揮するのが分析的な思考方法である。

分析的な思考を活用することによってモデルを構築し、そのモデルを検証することによって、発達現象を構成する要素が生み出す全体としてのプロセスやメカニズムを解明していくようなアプローチを採用するのが、今私が従事している研究の進め方だと言える。

要約すると、複雑性科学を活用した発達研究においても、既存の科学の強みでもある分析的なアプローチを活用することになる。ただし、そこに囚われるのではなく、部分の単純総和が全体を構成するわけではないという発想を持ちながら、複雑かつ非線形的な発達現象に迫っていくという特徴を持っている。

受講者の方の質問のおかげで私もまた一つの新たな気づきを得ることができた。2017/7/22(土)

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