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1068. 友人との夕食より:言葉の呪術的側面

May 28, 2017

昨日は、中国人の友人であるシェンと夕食を共にした。フローニンゲンの街の中心部にある日本食レストランに行き、三時間半ほど歓談を楽しんだ。

 

シェンは現在所属している言語学修士課程を修了したら、いったん中国に戻り、ヘルシンキ大学かオスロ大学で博士課程の空きのポジションが出たらそこに応募し、近い将来に博士課程に進学することを志しているそうだ。

 

気づかないうちに夜の10時近くまでシェンとあれこれと話をしていた。ディナーテーブルに腰掛けるや否や、シェンから孔子の『大學・中庸・論語』の原著を贈呈してもらった。

 

これはかねてからシェンに依頼をしていた書籍であり、ちょうどシェンが中国に一時帰国した先日に、本書を購入してくれたのだ。その場で私は書籍の包みを開け、中身を見ると、簡略化された現代中国語ではなく、古典中国語であることが嬉しかった。

 

私にとっては、簡略化された現代中国語よりも、古典中国語の方が姿形から意味を推察しやすいのでとても有り難い。ちょうどシェンの母が七月にフローニンゲンに来るとのことであり、その時にもまた中国の古典を購入してきてくれると申し出てくれた。

 

なにやら中国では、新品の書籍でも極めて価格が安く、私がもらった孔子の書籍も日本で購入すれば二千円はするであろうと思われるが、中国では二百円ほどで購入できるそうだ。シェンの厚意に甘え、老子の『道徳経』と荘子の『荘子』を購入してきてもらうことにした。

 

とりわけ今の私は、老師以上に荘子の思想に惹かれるものがあるが、どちらの書籍も楽しみだ。中国の思想と日本古来の思想を本格的に探究するのは、随分と後になってからのことになるだろうが、その日はいつか必ずやって来るだろうと予感している。

書籍の話を書きながら思い出したのだが、一昨日、埴谷雄高氏の『死霊』を日本のアマゾンから購入しようとしたところ、購入画面に「オランダ王国にお届けできます」と表示されていたことだった。

 

「そうなのだ、今私が住んでいるのは、国王が存在するオランダ王国なのだ」ということに改めて気づいた。私の感覚からすると、「国王」という存在がいることは不思議な感じがしており、「王国」という響きも少しばかり古風なように感じられた。

 

そこから仮に、「オランダに住んでいる」と言うのと、「オランダ王国に住んでいる」と言うのとでは、それを述べた本人の感情が全く違うだろうし、それを聞いている他者の感情も全く違うだろう、ということに興味を持った。

 

今度日本に一時帰国する際に、初対面の人にどこに住んでいるのかを聞かれたら、この実験を行ってみるのも悪くないかもしれないと思った。「オランダ王国に住んでいる」と言った本人とそれを聞いた人のどちらも、きっと笑みを浮かべるだろう。

 

だが、少しばかり真剣に考えると、やはり二つの表現の中にある差異の源泉は、注目に値するものだと思う。「オランダ」なのか「オランダ王国」なのかによって、それらの言葉が示す意味の範囲と性質が異なるように思う。

 

それらの言葉は、異なるイメージを喚起し、それに相まって異なる感情を私たちに喚起するのだ。やはり言葉には、驚異的な力が潜んでいる。そして、言葉の世界には、そうした呪術的とさえ形容できるような力を生む深層的な世界が広がっていることも実に興味深い。

シェンとの話の中で、この七月にギリシャを訪れ、八月にノルウェーを訪れる予定であることを伝えると、観光客で混み、暑い夏よりも、ギリシャへは春に訪れた方が良いということをシェンから聞いた。八月にノルウェーに行くことは確定だとしても、七月の予定は少し変更するかもしれない。

 

シェンと長時間にわたって歓談を楽しみ、10時前にレストランを出た。すると、その時間でも、フローニンゲンの空には日が残っていた。

 

完全な闇の世界に入る前の境界的世界は、何とも言えない美しさを放っていた。2017/5/15

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