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901.閃きを書き留める大切さ


今日は午前中に、計画通りに文献調査を進めることができた。具体的には、現在の研究で用いている、二つのシステムのシンクロナイゼーションを分析する「交差再帰定量化解析(CRQA)」に関する論文と、CRQAの母体である「再帰定量化解析(RQA)」に関する論文を五本ほど読むことができた。

五つの論文のうち、二つが人間発達に関するものであり、残りの三つは物理学に関するものである。最初の二つの論文は、どちらも私の研究に直接的に役に立つ情報が盛り込まれていた。

一つ目の論文は、人間のコミュニケーションにおいて、言葉の使用、表情やジェスチャーといった要素が、コミュニケーションの進行に応じてどのようにシンクロナイゼーションを起こすのかを調査したものである。

もう一方の論文は、ラポールの調査と言っても過言ではなく、セラピストとクライアントの非言語的な行動(例:視線、相づち、発話のリズム)がどのようなシンクロナイゼーションを起こしているのかを調査するものだ。

どちらの論文も内容として非常に興味深いのは確かであったが、私が最も関心を持ったのは、研究の内容にはなかった。私が最も関心を持ったのは、CRQAを研究に用いる際のアプローチだった。

現在時点において、私がCRQAを用いたアプローチは、プログラミング言語のRを活用して、CRQAをデータに適用し、出力された複数の指標の意味を解釈することであった。しかし、論文に分析結果の文章を執筆している際に、果たしてそれらの指標を全て解釈することが、自分のリサーチクエスチョンに正しく答えることにつながっているのだろうか、という疑問を抱くようになっていたのだ。

私のリサーチクエスチョンの一つは、非常にシンプルであり、成人のオンライン学習において、教室内での教師と学習者の発話行動、もしくは、発話構造がシンクロナイゼーションを起こしていると言えるのかどうか、起こしていると言えるのであれば、全五回のクラスを通じて、シンクロナイゼーションの度合いはどのように発達していたのか、というものである。

このリサーチクエスチョンに答えるためには、CRQAが出力する複数の指標を全て取り上げる必要はないのではないか、ということをそれらの論文を読みながら改めて気づかされたのだ。仮に、今回の研究におけるシンクロナイゼーションを、教師と学習者間の発話行動のマッチング(例:「オープンクエスチョン」と「自発的回答」の組み合わせ)とみなすか、教師の発話構造のレベルと学習者の発話構造のレベルのマッチングとみなせば、マッチングの度合いを示す指標だけに焦点を絞った方が良いと判断した。

その次に、シンクロナイゼーションが起こっているのかどうかを客観的に判断するための基準か、もしくは何かしらの方法が必要になる。この点については、論文アドバイザーのサスキア・クネン先生からも指摘があったものであり、同時に、私も気にかかっていた論点であった。

それに対して、それらの二つの論文を読んで、閃くものがあった。シンクロナイゼーションが生じているのかどうかの判断は、意外と簡単であることに気づいたのだ。具体的には、二つのシステムの挙動がどれだけ同じパターンを持っているのかを示す「反復率(recurrence rate: RR)」に着目し、全五回にわたる教師と学習者の229回の相互作用の全てに対して、RRを算出し、一つの時系列データを作成する。

つまり、縦軸にRRを取り、横軸に相互作用の回数を0から229で取る。容易に推測できるのは、それらの時系列データは、線形的なものではなく非線形的なものであり、変動性を多分に含んだものだろう。

この変動性が有意味なものだということを検証するために、統計学の古典的な検定手法を用いれば良いことに気づいたのだ。その際に、RRに関するデータをシャッフルし、ランダムに生成された時系列データをもう一つ作る。

あるいは、一つではなく、「複雑性と人間発達」のコースで学習した「モンテカルロ法」を用いて、RRに関するランダムな時系列データを1000個ほど生成し、それらと実際の時系列データを比較する形で統計検定を行うのだ。

要するに、RRに関する1000個ほどの擬似的な非線形時系列データと実際の非線形時系列データを照らし合わせ、実際のデータが有意味であるかを検証するのだ。その時、帰無仮説として、実際の時系列データが示す現象は確率的に生じたものであるという仮説を立て、それが棄却されるのかどうかをモンテカルロ法を用いて検証したい。

仮にその仮説が棄却されれば、実際の時系列データが示す現象は、確率的に生じたシンクロナイゼーションではなく、有意味なシンクロナイゼーションだということが言えるだろう。もしそのように言えたのであれば、RRの時系列データのグラフを参照しながら、どのような発達的推移を辿っているのかを分析したい。

今回の研究で適用するかどうかは別にして、シンクロナイゼーションがどの種類のノイズを発しているのかを検証するために、「トレンド除去変動解析(DFA)」などを適用するのはとても面白そうだ。五つのうち、最初の二つの論文を読みながら、そのような考えが生まれることになった。

論文や書籍を読んで閃いた事柄は、それが正しいのか誤っているのかにかかわらず、とりあえず一度書き出してみることは非常に大切だと改めて思う。仮に見当違いなことを書き留めていたとしても、後々に読み返してみたときに、見当違いの箇所に気づき、そこから筋の良い別のアイデアが生まれることが多々あるのだ。2017/4/1

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