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769. ダイナミックシステムアプローチと非線形ダイナミクスを活用した実証的コーチング


午前中の仕事を終え、昼食を済ませてひと休憩入れてから、「複雑性とタレントディベロップメント」というコースで、一緒にグループワークを行うことになったインドネシア人のタタとキャンパス内のカフェでミーティングをするために、自宅を後にした。

今日は少しばかり風の強い日であるが、寒さはそれほど厳しくなく、フローニンゲンの街にも春の予感が漂い始めている。偶然ながら、カフェの入り口の前でタタと鉢合わせ、簡単に挨拶を済ませてから、席を確保した。

少しばかり雑談をしてから本題に移った。今回取り組む課題は、発達のプロセスを観察することが目的となっている。

前の学期にタタはコーチングのコースを履修しており、私も発達支援コーチングの実務に携わっているという都合上、コーチングを題材にすることにした。コースを担当するマライン・ヴァン・ダイク教授の話によると、昨年のテーマには、子供がチェロを学ぶ過程や赤ちゃんが歩行能力を獲得するプロセス、さらには大人がウォールクライミングを行うプロセスを観察したものがある。

タタと私は、コーチ役とクライアント役を交互に行い、それぞれ30分ぐらいのセッションを録画・録音し、そこでの発達プロセスを観察することにした。私から提案したのは、コーチとクライアントの行動パターンを分類し、それがセッションの推移によってどのように変化するかを見るというものである。

ただし、これはカテゴリーデータであるため、一つ一つのカテゴリーに数値を振って、会話のターンの推移に沿ってそれらの変化を追ってみたところで、発達プロセスを明らかにすることは難しいという議論になった。

もちろん、ダイナミックシステムアプローチの手法である「状態空間分析」や非線形ダイナミクスの手法である「フラクタル尺度解析」などを適用すれば、それらのカテゴリーデータから発達プロセスを可視化することは十分に可能である。

だが、今回の課題でそれらの手法を活用することは、幾分手の込んだものであると私も思い、このアイデアを採用しないことにした。二つの目のアイデアは、カート・フィッシャーのダイナミックスキル理論を活用し、コーチとクライアントの会話をスキルレベルの観点から分析していくというものである。

もし私一人でこの課題に取り組めるのであれば、この案を採用したいところだが、二人でコーディングマニュアルを一から作成するのは手間がかかる上、私がフィッシャーのレベル尺度のそれぞれをタタに教えなければならないという手間もある。

そのため、結局こちらのアイデアもあまり望ましくないことがわかった。するとタタから、例えば、コーチがクライアントの話をどれだけ理解しているのかを0から10で評価し、クライアントがコーチのことをどれだけ信頼しているのかを0から10で評価するのはどうか、というアイデアを出してもらった。

それを聞いた瞬間に、このアイデアは面白く、データの取得や分析も容易であると思った。伝統的な発達科学のアプローチではなく、今回は発達のミクロなプロセスを追いかけるプロセスリサーチを行うことが課題の主目的であるため、セッションの前後に理解度と信頼度を図るのではいけない。

そのため、会話のターンに応じて、逐一コーチはクライアントが述べたことを理解しているかを直感的に0から10の尺度で評価し、クライアントはコーチの質問を受けた際に——もしくは、質問に答えた際に——コーチをその瞬間にどれだけ信頼しているのかを0から10で自己評価していく必要がある。

もちろん、実際のコーチングセッションでは、コーチやクライアントは、このように逐一お互いを何らかの尺度で評価していたとしても、それをメモするということはないだろう。ただし、「クライアントの今の回答はあまり理解できなかった」「その回答はとてもよく理解できた」という評価を、コーチは頭の中で無意識的に行っているだろう。

また、クライアント側も、「今の質問はどのような意図があったのだろうか。このコーチは自分のことをあまり分かってくれていないのかもしれない」「その質問はこれまでの自分にない視点が含まれており、私の話をよくわかった上で投げかけてくれたものだろう。このコーチは信頼できる」というような評価を無意識的にセッションの中で行っているだろう。

今回は、会話のターンに応じて、手元に用意した分析表に瞬時に数値を書き込んでいくというアプローチを採用しようと思う。そのようにして収集されたデータに対して、まずは単純にコーチの理解度とクライアントの信頼度に関するグラフを描き、それぞれが会話のターンに応じてどのような推移で変化しているのかを見てみようと思う。

その後、お互いの関係性を把握するために、理解度と信頼度に関するグラフが示すであろう変動性を、フラクタル尺度解析を活用することによって、パターン化してみるのも面白いかもしれない。

あるいは、本日のクラスでも言及があり、現在の私の研究でも活用している「交差再帰定量化解析」を用いることによって、コーチの理解度とクライアントの信頼度がどれほどの度合いでお互いにシンクロナイゼーションを起こしているのかを分析してみるのも面白いだろう。

ダイナミックシステムアプローチや非線形ダイナミクスの手法を用いて、実証的にコーチングプロセスを研究した論文を執筆しようと思っていたところだったので、今回の課題はその論文の執筆に向けた良い準備になるだろう。2017/2/22

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