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741. 普遍的な日本語感覚へ向けて


——外国語を知らない者に母国語は知りえない——ゲーテ

昨夜床についてからしばらくの間、学術論文を執筆することについて考えを巡らせていた。真剣に論文というものを創作したいという思いが高まるにつれ、論文に関する作法をもう一度学び直している。

それに付随して、そもそも論文が持つ意味や意義は何なのかについても考えながら、論文執筆に関する方法論の構築と技術の洗練を絶えず意識していく必要があると改めて思った。数日前からMOOCを活用して、科学論文の執筆に関するオンランコースを視聴し始めた。

このコースを受講することによって、忘れかけていた論文の作法を思い出す契機になり、さらには、これまであまり意識していなかった観点などを獲得することができている。特に一つ、学術論文に関して自分が大きな思い込みを持っていたことに気づかされた。

それは、論文の読者は書き手の意図を把握するように絶えず注意をしなければならず、論文の意味を積極的に汲み取るようにしなければならないというものである。これまでの私の学術論文を執筆する態度には、そのような前提があったように思う。

確かに、読者は論文に積極的に関与するような読み方をしていく必要があるのだが、論文の書き手は、それを前提として文章を書いてはならないのである。つまり、読者が文章の意味を理解できるかどうかは、読者側の責任というよりも、書き手側の責任なのである。

これまでの私はどうも、そうした責任の所在を読者側に置いていたように思うのだ。学術論文というのは、兎にも角にも明瞭な文章でなければならない。複雑な構造を持つ文章を書く必要もなく、不必要な語彙で装飾(虚飾)された文章を書く必要もないのである。

徹頭徹尾、読者がその文章を即座に理解出来るかどうかを意識して、明確な文章を構成していくことが肝要なのだ。昨日の論文執筆を振り返ってみると、責任の所在をまだ読者側に委ねている自分がいたことに気づかされる。

こうした点以外にも、細かなところで言えば、私の論文執筆に関して、修正すべき箇所が山ほどある。もはや常識になりつつあるが、学術論文というのは、英語で執筆をしなければ基本的に意味をなさないものになっている。

英語以外の言語で執筆された論文は、その言語を読解することのできるコミュニティー内でのみ共有されるため、閉鎖的だと言える。当該学術分野に新たな知見を加え、その知を開かれたものにするためには、どうしても英語という言語で論文を創作していく必要があるのだ。

六年前に米国の大学院に留学した際に、その時の私が執筆する英語の文章は、とても日本的な香りを持つものであったと思う。言語はその国の文化と密接に関わっており、母国の言語の無意識的な作法が英語の執筆にも無意識的に現れるのである。

当時の私にとって、日本語が持つ無意識的な作法を対象化することから始めなければならなず、今の自分が執筆する英語を冷静に眺めてみても、まだ完全にその作業が終わっていないことを知る。それぐらい、母国の言語が持つ意味の生成方法とは無意識的なものであり、対象化がしにくいのだ。

そして、対象化からさらに歩みを進めると、英語の意味生成方法が自分の身体に染み渡るところまで意識的に訓練をしていかなければならないのだ。こうした作業を怠っていては、いつまでたっても、日本的な香りを持つ学術論文となってしまうだろう。

何も日本的な香りを持っていること自体が問題なのではない。当然ながら、日本人という固有のアイデンティティを持つ私が文章を執筆するのであるから、必ず日本的なものが残るのは避けようがない。

重要なのは、文章に不可避に滲み出す日本的なものが普遍的なものになるまで、不必要な日本語感覚を削ぎ落としていくことなのだ。これを実現させることができなければ、論文の執筆を通じて、真の意味で自分の研究領域に貢献することなどできないのだと思う。

英語での学術論文執筆の鍛錬が、私の日本語感覚を普遍的なものに昇華させていく道であるというのはとても不思議なことである。その道を今日も力強く歩きたい。2017/2/13

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