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543. その時へ向かって


フローニンゲン大学での二学期が始まった最初の週の土曜日が、静かに終わろうとしている。夕食を摂ろうと準備をしていると、ふと、知識が真の知識となり、真の知識が智慧となる過程の過酷さを思い知る。

そうしたプロセスの過酷さと同時に、その道を歩むことに要求される長大な時間についても考えを巡らせずにはいられなかった。日々の探究の中で、自分の知識が真の知識に変容することの難しさを思い知らされているのだ。

そこから智慧に至るなどというのは、もってのほかである。自分の知識空間を冷静に眺めてみると、そこには知識すら存在していないのではないか、と思わされるほど、密度が低い。発達科学者のカート・フィッシャーの理論が示すように、私たちの知識体系は、点から線へ、線から面へ、面から立体へ、そしてその立体が再び点へ・・・というサイクルを辿りながら構築されていく。

そのサイクルを眺めてみたとき、一つの段階から次の段階へ至るいずれのプロセスも困難が付きまとうのであるが、今私が直面しているのは、点としての知識を我が身のものとして獲得することにあるのだと思う。

皮肉にも、今の私がつまづいている箇所は、点という最初のプロセスなのである。自分の知識空間の中に、点を刻み込むことがいかに難しいことかを思い知らされている。

文献で記述されている知識を単になぞることは、ほとんど無意味である。仮に、一時的に点のようなものが知識空間に生まれたとしても、それは確固たる一つの点になる前に消滅してしまうのだ。

自分の知識空間の中に、いかに一つの点を刻み込むことができるのかが、大きな課題として自分に立ちはだかっている。ひょっとすると、一つの点を自分の知識空間に打ち込むためには、己の血を流す必要があるのではないか、とすら思う。

そこまでしなければ、知識が真の知識として、一つの点としての存在を形作ることができないのでないか、と思うのだ。そこから歩みを進め、点と点をつなぎ合わせるという営みや、線と線を組み合わせて面を作っていくという営みが待っていると思うと、この道のりは途方に暮れるものであり、前途多難である。

この世界には、問うてはらないものや、問う必要のないものが存在しているのではないか、と最近思う。自分は一体何を問いながら、毎日を生きているのか、どのような問いに応えようとして、毎日を生きているのか、を問うことがある。

この問いは、私に明確な答えをもたらしてくれないのだが、これを問うことによって、牛歩のようなものであったとしても、確かに自分の探究を前に進めることができていると思うのだ。また、自分がなぜ、過酷な道とわかっていながら、知識体系を構築しようとしているのか、という問いも、自分の探究を支えてくれるものかもしれない。

しかし、なぜその道が過酷なのか、と問うことは、もしかしたら必要のないことなのかもしれないと思う。今の私にとって、何を問うことができて、何を問うことが重要なのかをより明確なものにしていく必要があるろう。

自分の内側で、知識が体系となる時を待っていてはならない。とにかく、その時へ向かって歩き続けることが何よりも大事なのだ。日本語から離れれば離れるほど、日本語の奥深さを日々実感する。

「心血を注ぐ」という言葉があるように、自分の血を持ってして考究を進めてきた碩学の徒を、私はこれまで何人も見てきた。彼らと同様に、自分の血を持ってして、一つの点を刻み込むことを毎日愚直に継続していこうと決意する。

「その時へ向かう」というのは、そういう行為を指すのだと思っているからである。

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