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539. ダイナミックシステムアプローチを活用した研究の特徴


昨日は、研究プロジェクトに集中する必要があったため、昨日の「複雑性と人間発達」というクラスに関する振り返りがあまりできなかった。記憶が鮮明なうちに、印象に残っていることを書き留めておきたい。

クラスが行われるコンピュータールームに到着した私は、最前列の席を確保した。クラスが始まると、まずはダイナミックシステムアプローチに関する理論的な解説からスタートした。

昨日は初回のクラスであるため、各々の受講生にとって、ダイナミックシステムアプローチに関する概要を押さえることは重要であった。最初の論点は、ダイナミックシステムアプローチが発達科学に適用される以前の研究の特徴であった。

日本でも、少しずつロバート・キーガンを代表とする構造的発達心理学の枠組みが人口に膾炙し始めているが、彼らの研究は、基本的にダイナミックシステムアプローチが活用される以前のものに分類される。

それでは、過去の構造的発達心理学の研究にはどのような特徴があるだろか?例えば、年齢や社会的地位——企業組織においては役職——に応じて、発達段階がどのような分布になっているのか、という研究成果がある。

さらに、あるグループに発達支援を行い、その効果がどれだけあるのかを、発達支援の介入前後で比較する、という研究などがある。こうした研究から明らかになるのは、最初の例で言えば、15歳あたりに到達すると、ほとんどの子供たちは、抽象的な思考ができるようになる、ということであったり、部長クラスになると、キーガンの段階モデルで言えば、発達段階4に到達している、というようなことだろう。

後半の例で言えば、クライアントよりも発達段階の高いコーチがコーチングを行えば、半年後にクライアントの発達段階が0,4ほど向上する、というような科学的知識が生み出されるかもしれない。これらの科学的知識は、間違いなく価値あるものであり、発達科学の発展に寄与してきたことは確かである。

しかしながら、これらの研究に関して、例えば、下記のようなことが疑問に残るのではないだろうか。「子供たちは、具体的な思考しかできなかった状態から、抽象的な思考ができる状態へどのように移行するのだろうか?」「コーチングはクライアントの発達段階の向上にどのように作用しているのか?」「なぜ全ての子どもたちが、同時期に抽象的な思考ができる状態に移行しないのか?」

これらの質問は、つまり、「発達現象がどのような人たちに、何によって、いつ、どのように生み出されるのか?」に関係しているものだと言えるだろう。残念ながら、既存の発達科学の枠組みでは、このような問いに回答することは難しいのである。

なぜなら、そこでは発達のプロセスが蔑ろにされており、各人固有の発達の形というものが見落とされてしまっているからである。要するに、既存の発達科学の研究では、グループの平均を活用することや、ある一人の人間と他の人間を比較するような「個人間の差異(inter-individual difference)」に焦点が当てられており、「個人内の差異(intra-individual difference)」にはほとんど焦点が当てられていなかったため、上記のような問いに回答することが難しかったのである。

この背景には、個人が持つ複雑な発達プロセスを理解する理論と研究手法が欠けていたことが大きな要因として存在している。さらに、既存の発達科学のパラダイムには、そうした多様な発達プロセスを解明しようとする視点が欠けていたとも言えるだろう。

このような歴史を経て、現代の発達科学は、徐々にダイナミックシステムアプローチの理論と研究手法を取り入れていったのだ。結果として、ダイナミックシステムアプローチを活用した発達研究では、「ある要因がいつ・どのように、ある個人の発達プロセスに影響を及ぼすのか?」という問いに回答することができつつあるのだ。

このように、個人が持つ複雑かつ多様な発達プロセスに立脚した形で、一人一人の個人にとって意味のある科学的知識を生み出すことができるようになってきていることは、非常に大きな意義を持っていると思うのだ。

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