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499. ふと手にした三冊の書物より


いつもと変わらぬ静かな日曜日。オランダを象徴するかのような西洋風のレンガ造りの家々を窓から眺め、しばらく通りを観察していると、通行人がまばらに通り過ぎていく。フローニンゲンという街は、中心部は比較的賑やかだが、中心部から少し離れると、閑静な住宅街が広がっている。

人々が密集した大都会と異なり、自宅から外に出てみても、観想的な意識状態を努力することなく維持できるのは驚くべきことである。これまでも世界の様々な大都市で生活をしてきたが、自宅の中で観想的な意識状態を作り出すことができても、ひとたび外に出ると、その状態を維持するのは至難の技であった。

今日の出来事はまさに象徴的であり、近くのスーパーまで散歩をしている最中、常に観想的な意識状態の中にいたのである。それはさながら、歩く瞑想をしているかのようであった。オランダという異国の地に来て以降、私は四六時中、観想的な意識状態の中にあるような気さえするのである。

午前中、本日こなしておきたい仕事に集中的に取り組んでいた。昼食前に、少しばかり集中力が欠けてきたと思ったため、書斎の本棚に向かい、その瞬間に気になる書籍をいくつか手に取り、パラパラと眺めていた。

最初に手に取ったのは、今年の一月に英国ケンブリッジ大学を訪れた時に購入した “Social influence network theory: A sociological examination of small group dynamics (2011)”である。おそらくこの本を無意識的に手に取ったのは、現在の私の関心事項の一つに、ネットワークの観点からグループダイナミクスを捉えていくことがあるためだろう。

この書籍を真に読みこなすには、線形代数と統計学の知識基盤をより強固にしていく必要があると思った。前回読んだ時に引いた下線部を中心に読み返し、この数年以内に、社会学的なネットワーク分析を自分の研究に導入する日が来ることに思いを馳せていた。

次に手に取ったのは、”Business dynamics: Systems thinking and modeling for a complex world (2000)”という千ページ近くある大著である。著者は、MITスローンビシネススクール教授のジョン・スターマンである。

スターマンはMITのシステムダイナミクスグループのディレクターを務めており、彼らの研究は、ちょうど私がジョンエフケネディ大学にいた頃から注目をしていた。本書を一瞥するだけでもわかるのは、企業経営において、システムダイナミクスの理論や手法はかなり洗練されているということである。

スターマンがMITの教授ということもあるだろうが、本書にはシステム工学の理論やアプローチが多数盛り込まれている。私が現在探究を進めているダイナミックシステムアプローチとも大部分は重なっているが、それでも参考になる箇所が豊富にある。

人間の知性や能力というダイナミックに変化する現象を捉えようとするとき、システム科学の導入が進んでいる工学、生物学、経営学の類書は随分と有益であるが多い。システムダイナミクスは、個人や組織の成長・発達と密接に関わった分野であるため、今後長らく自分の関心事項の一つとなるだろう。

そして、休憩中の最後に手に取ったのは、森有正先生の全集第14巻である。第14巻は、森先生がフランス語で書き残した日記を、フランス文学者の二宮正之氏が翻訳したものである。翻訳書であるにもかかわらず、森先生の言葉の力を感じることができるのは、二宮氏の巧みな翻訳のおかげだと思う。

上記二冊の書籍はどれも、研究という私の仕事をさらに前へ進めていくために重要なのだが、やはり森先生の書籍のように、自己の内側を深く掘り下げていく書物の方に、より重要なものを見出している自分がいるのは確かだ。

「ある分野において本当の研究者になれるのは、その専門分野の用語全体が、実際に使用しうるようになる日からなのである」という森先生の言葉は、今の自分にとって最も響くものであった。知識体系の構築と実践力の関係性について、数日前に考えていたこともあり、なおさらこの言葉が重要なものに思えたのだ。

ここで述べてられている「実際に使用しうる」という意味は、知識の体系が実務の世界などで実用的に活用されることにとどまらない。それよりもむしろ、獲得した知識の体系を通じて生きることにその本質があるのだと思う。つまり、知というのは、そもそも生きることそのものと不可分なものでなければ、知が本来の意味で力を発揮することはないのである。

休憩を終え、オランダ語・英語・日本語の三重言語生活について、どのようにそれと向き合っていくべきか考え直した。どこかの段階で、今の私の言語との向き合い方を変える必要があるかもしれない。

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