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492. 卓越性の発達に関する三つの制約


今回は、知性や能力の高度化に関する発達科学の近年の潮流を踏まえ、発達に影響を及ぼす複数の要素間の相互作用を考慮に入れた支援手法について見ていきたい。一つ面白い論文として、 “A constraints-led perspective to understanding skill acquisition and game play: A basis for integration of motor learning theory and physical education praxis? (2010)”を紹介したい。

この論文は、スポーツ科学に関するものであるが、その内容は、知性や能力の高度化支援に広く活用できるものだと思う。この論文がもたらす洞察として一つ重要なのは、私たちは何らかのパフォーマンスを発揮する時に諸々の制約を受けている、ということである。

前回の記事で紹介した「タレントトライアングル」では、ある意味、学習者・環境・タスクのそれぞれの相互作用を念頭に置いている。今回の論文でも同様に、実践者と環境とタスクの相互作用を踏まえながらも、それらが独自の制約を被っていることに注意しなければならない、と指摘している。

それらの要素がそれぞれ固有の制約を抱えているというのは、当然と言われればそうなのだが、これを明確に言語化して研究論文の中に盛り込んでいるものは数が少ないように思う。一つの目の制約は、実践者固有のものであり、実践者の身体特性や心理特性がそれに該当する。

例えば、バスケットボールを例にとると、身長の高いプレイヤーと低いプレイヤーは、身体的にまず異なる制約を受けており、それぞれ異なったポジションを担当することになり、ポジションごとにトレーニングで焦点を当てるべき能力も異なるのだ。

また、プレイヤーが積極的に攻撃を仕掛けるメンタリティを持っているのか、常に周りを活かすメンタリティを持っているのかも心理的な制約となり、ポジションやトレーニングのあり方に影響を及ぼす。そして、実践者が持つこれらの制約は、プレイヤーのポジションという環境に影響を与え、ポジションで果たすべきタスクにも影響を与える。

二つ目の制約は、環境に固有のものであり、特に実践者を取り巻く設備や環境に関わるものである。バスケットボールにおけるコート上のポジションも狭義の環境ではあるが、ここではより大きな、トレーニング施設などの広義の環境も含まれる。さらに重要なのは、環境的制約には仲間の存在や指導者やコーチの存在という社会的なものまで含まれるということだ。

どんなに優れた設備が整っていたとしても、その設備をどのように活用していくのか、どのようなトレーニングメニューで実践を深めていくのかをサポートしてくれる存在も環境的制約に含まれる。また、その実践を取り巻く文化的な要因も環境的制約に含まれるのだ。

三つ目の制約は、タスクに固有のものであり、成長支援に携わるものとして、おそらくこれは非常に重要な要素である。発達心理学者のカート・フィッシャーが指摘しているように、私たちの知性や能力は、具体的なタスクを通じて発達していくという特徴を持つ。

支援をする際に、実践者の習熟度に応じて、どのようなレベルのタスクを提供するのかを見誤ると、実践者の力は何ら向上しないことが起こり得るのだ。タスク固有の制約とは、一言で述べると、タスクの難易度と言ってもいいだろう。

スポーツのトレーニングであれば、トレーニングの際に補助具を活用したり、複数ではなく一つの動作に絞ってトレーニングを行うように支援するなど、タスクに関係する制約を緩めることができる。同様に、企業社会や教育の世界でも、与えるプロジェクトや学習項目の難易度を操作することは、工夫次第でいくらでも行えるはずである。

こうした試みはまさに、タスク固有の制約に働きかけるアプローチだと言える。タスク固有の制約を緩めるためには、実践者のレベルを見極める眼を兼ね備えておく必要があるだろう。理想的には、支援者の主観的な判断のみならず、客観的なアセスメントなどを導入することが望ましい。

最後に、この論文で言及のある「非線形教授法」についても触れておきたい。非線形教授法とは以前紹介したように、複雑性科学の知見を取り入れた教育手法かつコーチング手法である。ここでは、実践者と環境との相互作用が何よりも強調される。

先ほど、私たちの知性や能力は、具体的なタスクを通じて発達していく、ということを指摘したように思う。厳密には、「具体的な文脈における具体的なタスクを通じて」というのが正確だろう。非線形教授法では、ジェームズ・ギブソンのアフォーダンス理論の考え方も採用されている。

この理論を一言で述べると、私たちは環境から固有の情報を受け取りアクションを起こす、というものである。そのため、支援者は実際の実践環境とトレーニングの実践環境をいかに近づけるかを意識する必要があるだろう。

なぜなら、実践環境とトレーニング環境がかけ離れている場合、実践者は二つの環境から異なる意味を受け取ってしまい、トレーニングで通用したことが実践の場では通用しなくなるということが起きてしまうからである。トレーニングの環境設定と実践(スポーツで言う「試合」)の環境設定が乖離していると、トレーニングの成果が実践で発揮されないということが起きてしまうのだ。

こうしたトレーニングと実践の乖離というのは、スポーツにおけるトレーニングのみならず、企業社会における人財育成にも当てはまることだろう。

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