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439. カート・レヴィンの理論より


発達心理学者のハインツ・ワーナーが指摘しているように、学習や発達の本質には「差異化」という現象がある。これは生物の進化のように、現在の特性がどんどん分化されていく形で私たちの学習や発達が進むことを示している。

先日、組織に関する研究で多大な功績を残した心理学者のカート・レヴィンの “Field theory in social science (2013)”という書籍を読んでいた。ここにはレヴィンの選び抜かれた論文が収められている。その中でも1942年に執筆された “Field Theory and Leaning”には非常に洞察の溢れる指摘がいくつも掲載されている。

レヴィンの指摘で特に興味深かったのは、単なる反復学習は差異化の過程を妨害し、逆に同質化(あるいは固定化)を促進してしまうというものである。この考え方は以前紹介した「非線形教授法」にもつながってくるものだと思う。

非線形教授法では、単なる繰り返しをできるだけ避けながら、現実の環境に即した形で変化に富む実践を学習者に行わせることに鍵がある。こうした発想の元には、ダイナミックシステム理論のように、学習や発達を動的なものとみなす考え方がある。

非線形教授法が比較的近年に生み出されたものであることを考えると、今から70年以上も前に、学習や発達の動的な側面に着目していたレヴィンの先見の明に驚かされる。また、レヴィンの論文を丹念に読んでみると、彼が発達における停滞や退行現象を深く探求していたこともわかる。

言い換えると、レヴィンは発達現象には停滞や退行が不可避であるということを、実証研究によって半世紀以上も前に明らかにしていたのである。構造的発達心理学の領域では、発達過程で不可避に生じる停滞や退行現象が認められるようになったのは、比較的最近のことである。

おそらく、カート・フィッシャーを代表とする新ピアジェ派たちによってこうした現象が指摘されるようになったのは、この20年以内のことだろう。もちろん、発達において退行現象が見られると指摘したのは古くはフロイトだが、フロイトは退行現象を幼児期への単なる逆行であるとして否定的に捉えていた。

一方、フロイトの弟子のユングは、退行現象を力強いエネルギーをもたらす創造的なプロセスであると捉えていた。つまり、フロイトは退行現象を否定的に捉えていたのに対し、ユングは退行現象を肯定的に捉え、固有の価値を見出していたことがうかがえる。

いずれにせよ、構造的発達心理学の観点から停滞や退行現象が受け入れられるようになったのは、近年においてであることに変わりはない。そうした背景を考えると、発達プロセスにおいて停滞や退行は例外的な現象ではなく、所与の現象であると指摘したレヴィンの功績は大きいだろう。

そこからさらに、近年では「レジリエンス(精神的弾力性)」という言葉が提唱されており、停滞や退行に対する柔軟性が強調される時代になっている。停滞や退行がいかに不可避のものであるとはいえ、永続的に停滞や退行をしていては、発達が起こらないのも事実である。

また、レジリエンスという概念が、「発達に不可欠な変動性を適度に維持する力」という意味を持っているのであれば、それは発達を支える重要な要素だろう。人間や組織の発達について考える際に、レヴィンの場理論はその他にも非常に重要な考え方を含んでおり、今後も少しずつ彼の理論を参考にしながら発達現象に迫っていきたいと思う。

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