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385. 問いを引き受けるということ


今日はいつも以上に集中力を発揮して仕事に取り組むことができていたように思う。本来であれば、土日のどちらかには必ずランニングをしているのだが、今週はランニングをせず、来週からは月曜日に走ることにしようと思う。本日は走るという身体運動よりも書物を読むという思考運動に適した日だったのだと思う。

以前、「問いが問いを生む」という循環プロセスについて言及したことがあったように思う。あの時以降、この話題について考えることはなかったのだが、イマニュエル・カントが “Prolegomena to any future metaphysics (1783)”の中で同様の指摘をしていることに気づいた。

カント曰く、ある問いに対する回答は必ず新たな問いを生み出し、その問いはまた何かしらの回答を要求するのだ。以前、ハーバード大学教育大学院のある教授に、「米国には優れた教育大学院が存在し、教育に関する研究や実践、そして教育政策の立案と導入手法に関してこれだけ洗練されているにもかかわらず、国内の教育問題が一向に解決する兆しが見えないのはなぜなのか?」と尋ねたことがある。その教授がどのような回答をしたのか今となっては覚えていないが、この問題は上記の話題と関係するかもしれない。

私たちは個人レベルで常に問いと答えの連続的なサイクルの中で生きることを宿命づけられており、これは集合レベルでも同じことが言えるのではないだろうか。つまり、集合レベルで何かの問題を解決しようとするとき、そこに暫定的な回答が提出されるが、その回答が再び新たな問題を生むのである。

こうした循環的なサイクルが存在しているため、既存の教育問題に関する打ち手が提出されたところで、再び新たな問題が生み出され、結果として教育問題が解決する兆しが見えないのかもしれない、と思わされた。

これは「科学の進歩」と呼ばれる現象にも同様に当てはまり、科学的な問題と解決策は常に一組のセットの形で永遠にその組み合わせが生み出されていく。こうした無限に続く問題と解決策の連続的なサイクルに「進歩」という言葉を当てるのは、幾分皮肉な思いになる。

もう一つ、問いと回答に関して面白い関係があるとすれば、すべての問いは問いが生み出された構造からは回答を提出することができず、将来の構造を待たなければならないということだ。これはアインシュタインの名言「いかなる問題も、それを作り出した時と同じ考えの枠組みでは解決することはできない」に近い考え方であり、構造的発達心理学の根本的な考え方と似ている。

つまり、既存の問題は、その問題を生み出した構造よりも一段高い構造から解決策が提出されなければ、その問題は解決しないということである。個人の発達を例にとってみても、私たちは直面する問題を解決しながら成長していくというよりも、未解決の問題を抱えたまま次の段階に成長することによって、結果として過去の問題が解決されていた、ということが起きているのではないだろうか。

私自身の経験を振り返ってみても、日々様々な問いが自分に襲いかかってくるが、それらの問いに対して現在の自分ではどうにもならないことの方が多いのだ。結局、今の自分では如何ともしがたい問いを問いのまま引き連れる形で進んでいくと、いつの間にかその問いが解決されていた、ということが起きるのである。

この「問いを問いのまま引き連れる」というのは、自分の内側では相当気持ち悪い感覚が残る。しかし、いかにその感覚が後味の悪いものであったとしても、未解決の問題を未解決のまま背負う形で進むことができるかが、次の発達段階へ至るための鍵なのではないかと思う。

これは何も、直面する問題を軽視することでもなければ、解決に向けて何らの努力をしないということを意味しない。むしろ正反対である。問題と真摯に向き合い、解決に向けて全力を尽くすというプロセスを経ることによって、その問題の芯に至るのだ。そして、その芯をくわえたまま歩き続けることができるかどうかに、さらなる発達の鍵があるように思うのだ。

上記のようなことを考えると、個人にせよ集合にせよ、私たちの目の前には常に問いと問題が先行する形で存在し続けているではないかと思わされ、人類の進歩とはつくづくいばらの道だと思う。

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