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378. 注目を集める教育手法「非線形教授法(nonlinear pedagogy)」について


ここ最近は、スポーツ科学の研究成果から人間の知性や能力の発達について考えさせられることが多い。実際に、スポーツ科学の学術論文を読んでみると、そこには非常に面白い研究手法や研究結果、そして能力開発に関する有益な知見が数多く存在することに気づく。

昨日は午後から、「タレントディベロップメントと創造性の発達」のコースの第三回目のクラスで必読論文とされている “Representative learning design and functionality of research and practice in sport (2011)”を読んでいた。この論文は、スポーツの領域における能力の発達に焦点を当てているが、一般的な教育の世界や企業社会での人財育成に活用できる重要な知見をいくつも含んでいる。

特に、「非線形教授法(nonlinear pedagogy)」という手法が、身体教育やスポーツコーチングの世界に取り入れられつつある、ということに私は着目した。非線形教授法とは、ジェームズ・ギブソンの生態心理学とダイナミックシステム理論の原理を応用した新しい教育手法である。

非線形教授法のベースには、学習者は環境という動的なシステムを映し出す複雑な神経生態学的システムであると見なされ、これら二つの動的なシステムは相互作用を行っている、という考え方がある。特に重要な考え方は、私たちがアクションや意思決定をするための関連情報は、私たちと環境の相互作用によって生み出されている、ということである。

言い換えると、非線形教授法では、学習者を複雑な神経生態学的システムと捉え、環境を構成する様々な要素と自分自身を構成する様々な要素が生み出す相互作用の中から、その場に最もふさわしい適応的な振る舞いを学習者は無意識的に選択すると考えられているのだ。

結局のところ、この論文で書かれていた内容を実務の世界に応用する際に重要なのは、私たちの知覚とアクションは常に環境との相互作用によって生み出されるものであるため、どのようなトレーニング環境を設計するかが能力の発達に大きな影響を与える、ということである。

私たちの知性や能力は、特定の領域のある文脈において発揮されるという特質があるため、トレーニングの際にどのような文脈設定を行うかが極めて重要な鍵を握る。

また、非線形教授法においては、一人一人の学習者が環境からどのような情報を得ているのかを分析し、各人異なる動的なシステムの運動を適切に刺激していくようなタスクを与えていくことに特徴がある。

要するに、ある特定の知性や能力を伸ばすトレーニングを計画する際には、個人に着目するだけでは十分でなく、個人と環境の双方——さらには両者の相互作用——を考慮していく必要があるのだ。環境の設定とタスクの設定はこれまでも強調されていることかもしれないが、もう一度、その重要性を確認しておく必要があるだろう。

上記の非線形教授法は、以前に紹介したように、「ノイズ」を学習プロセスの中に組み込むことの重要性と関係している。知性や能力の発達支援を行う際には、複雑かつ変動の激しい環境の中でタスクに従事させることに加え、環境の複雑性を低減させることなく、その複雑性に適応する形で知性や能力が発揮できる力を養うことに主眼を当てる必要があるのだ。

発達支援を行う際にはとかく環境やタスクの複雑性を低減させる形で学習に従事することが勧められがちであるが、生態心理学やダイナミックシステム理論の観点からするとそれはあまり望ましいことではなく、学習者を動的かつ複雑な環境の中に絶えず置いて支援にあたることが何よりも重要なのである。

非線形教授法に関する論文はその他にもたくさん存在するので、それらを調べる過程で能力の開発に関する自分なりの考え方を深めていこうと思う。

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