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345. ダイナミックシステム理論に関わる二つの派閥


今日は、デイヴィド・ウィザリントンの “The dynamic systems approach as metatheory for developmental psychology”という論文を読んでいた。これは実に秀逸な論文であり、ダイナミックシステム理論を発達研究にメタ理論として活用する際に考察するべき哲学的な問題が色々と提示されている。まさに私の学位取得論文で触れたいような哲学的なテーマがいくつも議論されているのだ。

この論文は私が期待していた以上の洞察を含むものであったし、想像していた以上に難解でもあった。簡単にこの論文の概要を紹介すると、ダイナミックシステム理論とはそもそも、発達プロセスにおける安定性や変化を探究するメタ理論的な枠組みとして活用されてきたという背景がある。

しかしながら、ダイナミックシステム理論をメタ理論として活用する際に、アプローチの異なる二つの派閥が存在するとウィザリントンは指摘している。一つは「純粋な文脈主義者」と呼ばれる派閥であり、これは全ての発達現象を「今ここ」という文脈の中で説明付けようとする。

もう一つは「有機体的文脈主義者」と呼ばれる派閥であり、これは発達現象を「今ここ」という局所的な文脈の中だけで説明するのではなく、私たちと文脈の双方を有機体とみなし、両者が相互作用するという認識に基づいて発達現象に迫っていく。

簡単に述べると、前者の派閥が信奉している思想は、文脈とは所与のものであり、私たちは所与の文脈の中に組み込まれる形で知性や能力を発揮していく、というものである。一方、後者の派閥が信奉している思想は、文脈は所与のものではなく、私たちと文脈は相互に影響を与え合い、私たちは文脈に参与する形で知性や能力を発揮していく、というものである。

ダイナミックシステム理論に関する数学的な技術的問題ではなく、哲学的な思想的問題に関する書籍や論文を長らく読んできた中で、元インディアナ大学教授エスター・セレン(1941-2004)を代表的論客とする「ブルーミントン学派」とフローニンゲン大学のポール・ヴァン・ギアートを代表的論客とする「フローニンゲン学派」の思想上の違いについて、私の中でこれまで判然としないものがあった。両者の思想的な違いは結局のところ何なのだろうか、と思案していたのだ。

幸運にも、ウィザリントンの論文を読むことによって、両者の違いが徐々に明らかになってきたのである。一言で述べると、前者の「純粋な文脈主義者」に該当するのが「ブルーミントン学派」であり、後者の「有機体的文脈主義者」に該当するのが「フローニンゲン学派」なのだと思うに至った。

また、後者の「有機体的文脈主義者」に該当するその他の研究者としては、元ハーバード大学教育大学院教授のカート・フィッシャーや新ピアジェ派の代表的人物ロビー・ケース(1945-2000)に師事をしていたラドバウンド大学のマーク・レヴィスなどが存在している。

もちろん現在私はフローニンゲン大学にいるということもあるが、それよりもこれまで抱えていた違和感と照らし合わせてみた時に、後者の思想を採用すると思うのだ。「発揮される知性や能力のレベルはその人そのものを表すものではなく、ある文脈においてその人が発揮する知性や能力に付与されるものである」という発言は確かに正しい側面を持つ。

しかし、そこには何か欠落している真実がありそうだ、という違和感をずっと抱えていたのだ。

この違和感を安易に消し去ろうとするのではなく、あえて保持することを心がけていた時に、私たちが受動的に文脈に置かれて知性や能力を発揮するというよりも、私たちは文脈を能動的に規定しながら知性や能力を発揮していくのではないだろうか、という考え方が徐々に私の中で芽生えていたのである。

より詳しく述べると、文脈そのものを作り出す働きや文脈を改編する働きを私たちの知性は備えているのではないかと思ったのだ。要するに、文脈は所与のものではなく、私たちは文脈それ自体を生み出すのである。私たちは文脈に置かれながらも、文脈を創出することにも参与する形で己の知性や能力を発揮していくのではないか、ということである。

そうでなければ、全く同じ文脈を設定しているように思える環境の中で、あれほどまでに知性や能力の発揮の仕方に差が生まれることが説明できないということを、自分のこれまでの経験から振り返っていた。

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