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319. 欧州小旅行記:フリードリヒ・デュレンマット美術館を訪れて


早朝のニューシャテル湖の散歩からホテルへ戻り、ゆっくりと朝食をとった。朝食を食べながらスイスの物価についてあれこれ考えを巡らせていた。

普段の生活における朝食では果物しか取らず、一日に三食食べるのだが、基本的に旅行中は朝食を多めにとり、昼食を食べずに夕食と合わせて二食だけ取るようにしている。旅行中はあれこれ動き回りたいという考えがあるので、二食だけで旅を進めていくのは自分にとって理にかなっている。

昨日の夕食は現地のスーパーで買い物をしたのだが、スイスでもユーロが使えると思い込んでいたが、スイスがEU加盟国ではないということをすっかりと忘れていた。つまり、この国では基本的にユーロでの支払いを受け付けておらず、現地通貨のスイスフランのみが使えるのだ。

もちろんクレジットカードで支払うことができれば、現地通貨のスイスフランを用意する必要はないのだが、思わぬところに意外な落とし穴があった。そのスーパーであれこれ食料品を見ていたのであるが、基本的にスイスの食料品の価格は高いと感じた。

水の価格はオランダと比べても遜色はないが、食べ物に関しては二倍ほど割高であることがわかった。美術館や博物館の入場料や交通機関の費用などはオランダと比べてもそれほど変わりはないため、食べ物の価格だけ高いことが不思議である。

想定される理由についてあれこれ考えながらホテルを後にし、本日はスイス人の小説家かつ画家のフリードリヒ・デュレンマット(1921-1990)の美術館を訪れた。ニューシャテルを訪れるまで私はこの人物の仕事について知らなかったのだが、ニューシャテルにある美術館や博物館を検索していると偶然見つけたため、この日の午前中に訪れようと思ったのだ。

デュレンマットの美術館は、ニューシャテル駅の裏手にある小高い山の上にある。実際のところ、この美術館はデュレンマット本人の自宅の跡地に建築家のマリオ・ボッタが建設したものだそうだ。この美術館を訪れることによってあれこれと過去の経験が紐付いていったのだが、サンフランシスコ時代に訪れた「サンフランシスコ近代美術館(SFMOMA)」もなんとマリオ・ボッタが手がけた建物だったのだ。

それゆえにデュレンマットの美術館に到着した時、どこか面影のある建築物だと感じていた理由がわかった。

ニューシャテル湖を見下ろす山の上に突如として現代的な建物が現れた時には驚いたが、ボッタの建築作品が優れているのは、周りの景観を損なうことをせずに、建物と周りの環境を調和させることにあると思った。

美術館の館内もニューシャテル湖の水と同じくらい透明感があり、作品を堪能するために心地よい空間を提供してくれていた。美術館の開館とほぼ同時に入場したためか、私一人しか訪問者がおらず、展示されている作品を独り占めしているような気分であった。

デュレンマットの作品を見ていて気付いたのは、彼が人間心理の闇の奥深くにまで踏み込んで作品を描いているということだった。極めてシュールでグロテスクな絵画作品が多いのだが、それらの全てが人間心理の暗黒面をこれ以上ないぐらいに的確に掴んでいるのだ。

一般的に、美しい風景画や人間心理の光の側面を描いた作品を鑑賞する時、精神の浄化作用のようなものが私たちの内部に引き起こされるだろう。しかしそれとは逆に、人間心理の闇の側面を描いた作品を鑑賞した時にも、別種の精神的な浄化が引き起こされるのだということを私は感じた。

以前どこかの記事で書いたが、基本的に私たちは自分の攻撃性や闇の側面を抑圧しながら生きているのだ。特に現代社会ではそれらが過剰に抑圧されている状況にあるため、デュレンマットのような芸術作品はそれらの抑圧感情の安全弁のような役割を果たしうると思わされたのだ。

多数の暗黒的・破滅的な作品が多い中、私が取り憑かれたようにずっと鑑賞していたのは “Black Ascension”という作品である。その他にも立ち止まって細部まで鑑賞するような作品が数多くあったが、この作品だけは格別であった。

しかし、今の私にはなぜこの作品に自分が取り憑かれたように見入っていたのかわからない。また、カフェでコーヒーを飲んだ後にもう一度この作品を見てから帰らなければならない、と思った理由も定かではない。

ライプチヒでのバッハ博物館しかり、この作品を自分の内側から適切に理解するには当分時間がかかりそうだと思わされたのだった。

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