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250. 風


——風は己が好むところに吹く。汝その声を聞けども、どこより来たりどこへ行くを知らず——ヨハネ伝

山口県の徳山駅で新幹線を降りた時、我が身を包むような心地よい風が吹いていた。駅の窓から瀬戸内海を眺め、瀬戸内海から吹き込むあの優しい風を全身で受け取った。

清々しく、そして優しいこの風は、私にとって思いがけない嬉しい歓迎であった。歓迎の風を受けながら、今から20年以上も前のことになるが、東京から山口に引越したあの日のことを思い出した。

あの日も間違いなく、瀬戸内海から吹き込む穏やかな風を感じていた。磯の香りがブレンドされた風を始めて浴びた時の記憶は今でも鮮明に残っている。その日はあいにくの曇り空であったが、初めて目にする瀬戸内海は自分にとって輝いて見えた。

成人になって得られた今日の感動と幼少時代のあの感動は、等しく「感動」という気持ちに括ることができる。幼少時代に得られたあの時の感動は黄色の色彩を帯びており、鋭い形をしていた。

一方、今日の感動はオレンジ色の色彩を帯びおり、丸みを帯びた形をしていたことに気づかされた。

同じ「感動」という感情なのに、色や形が違ったのだ。色と形の違いを感知した時、瀬戸内海に対する感動の質が自分の中で変わったのだとわかった。こうしたところにも、自分の内面的な成熟の証を見て取ることができた。

私はしばらく目を閉じて、その風がやって来た場所を想像し、この風が次に向かう場所を想像した。その風がやって来た場所も次に向かう場所も、決して一つには決まらない。しかしながら、そうであるがゆえに、自分の想像力によって、風がやって来る場所も次に向かう場所も決めることができるのだとわかった。

風の生誕地と次なる目的地に思いを巡らせてみると、私という存在もこの風のようなものだと思った。自分はどこからやって来て、どこへ行くのか。それは今の私には答えることのできない問いであるし、今後も明確な答えを得られないかもしれない。

だが、どこから来たのか、どこへ行くのか分からぬこの風のように自分は生きていくのだろう、ということはわかった。私の歩みに寄り添うかのように、風は色と形を変えながら私が好むところにいつも吹いてくれるのだろう。

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