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234. 安全基地と帰還場所


この二日間は五時前に目が覚め、身体と精神ともに調子がとても良い。早朝の覚醒と同時に、自分の身体と精神が新たなものに変わっている気がする。

睡眠というのは、身体と精神を回復させるのみならず、そこには身体と精神を再構成する働きのようなものが存在するのではないかと思わされる。目覚めとともにカーテンと窓を開け、注ぎたての太陽光と吹きたての朝風を取り入れる。

影も形も見えない小鳥たちが心地よい鳴き声を発している。その声に耳を傾けながら、そういえばセミの鳴き声がまだ聞こえて来ないことに気づいた。夏という季節を象徴し、自分が夏の季節にいるのだという確かな感覚をもたらしてくれるセミたちの到来が待ち遠しい。

セミというのは、私たち日本人にとって、夏という季節が今ここにあるということを教えてくれる教師なのかもしれない。そして、彼らは、私たちが夏という季節に全てを預けても良いという安心感を与えてくれる存在のような気がするのだ。

イギリスの心理学者かつ精神科医のジョン・ボウルビィ(1907-1990)は、子供が健全な発達を遂げていくためには、幼児期の時に少なくても一人の養育者(一般的には母親)と親密な関係を構築する必要があるという「愛着理論」を提唱したことで有名である。

幼児は愛着の対象者である養育者を「安全基地」として、つまり自らの精神的拠り所として果敢に世界を探求するようになり、何かあれば再び安全基地に戻ってくることができるのだ。世界の探索に安全基地が必要であるというのは、何も子供の発達だけに当てはまることではなく、成人の発達にも当てはまる。

これだけ世界が錯綜とし、複雑混迷を極める最中、己の精神的拠り所なくして積極果敢にこのリアリティを探求していくというのは難しいように思う。とりわけ発達段階が高度になればなるほど、それだけ探求の難易度も高度化し、直面する課題を乗り越えていく際に強固な精神的立脚地のようなものが必要だと思うのだ。

おそらく、どのようなものが安全基地として働くのかは、発達段階に応じて異なるものだろうし、またタイプ論的な個人差もあるだろう。ここ最近、自分にとっての精神的拠り所とは何なのか?自分が帰還する場所は何であり、どこなのか?を考えさせられる状況に置かれている。

そうした問いを自らに投げ入れてみたときに、ある一つの過去の記憶が自分にぶつかってきた。それは、米国生活の二年目の途中に訪れたボストン美術館で見たあの仏像であった。当時の自分は、西洋的なもの、特に米国的なものに圧倒されながらもそれと向き合い、それを自分の内側に取り入れることを強いられていた。

ボストン美術館に足を運んだことの発端は、西洋的なものに触れ、それを自分の内側で何とか折り合いをつける作業の一環だったのかも知れない。そこで自分が心を打たれたのは、西洋的な絵画や彫刻品ではなく、疑いようもなくあの仏像だったのだ。

この仏像と対面した時、私は自分の存在が消え去ってしまうぐらいの何かに抱擁されたという感覚があったのだ。実際に、そこには私の小さな自我などもはや存在していなかった。

結局のところ、私は日本という国そのものというよりも、日本の大地そのものというよりも、日本的なもの全てを自身の精神の大いなる拠り所としていることに気づかされたのだ。これから私はこの拠り所を頼りに、遥か彼方にある物理的・精神的な場所に赴き、再び日本的な何かに帰還することになるのだと思う。

結局それは自己に帰還することなのか、自己を超越した何かに帰還することなのか、今の自分は知らない。

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