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230. カート・フィッシャー5つの変容原則:「統合化」と「複合化」


極端に暑い日と比較的涼しい日が入り混じった不思議な時期である。夏という秩序だった季節が到来する前の最後の混沌状態にあるのかもしれない。

記事217で紹介した「知性や能力の発達に関する5つの変容原則」について、一つ一つの原則をより詳しく解説したい。再度確認すると、私たちの知性や能力が発達する際には(1)統合化(intercoordination)、(2)複合化(compounding)、(3)焦点化(focusing)、(4)代用化(置換化:substitution)、(5)差異化(differentiation)という5つの変容原則のいずれかが当てはまる。

統合化(intercoordination)と複合化(compounding)は一見すると似たような姿をしているが、「統合化(intercoordination)」は既存の能力レベルから新たなレベルへの発達の際(マクロな発達)に適用される原則である。一方、「複合化(compounding)」は既存のレベル内における種々の能力が組み合わさる際(ミクロな発達)に発揮される原則である。

簡潔に述べると、統合化(intercoordination)はある能力レベルから次のレベルに移行するという「垂直的な発達」に際して見られる現象であり、複合化(compounding)は同一能力レベル内における量的拡大という「水平的な発達」に際して見られる現象である。

上記の概略は以前の記事で紹介したものと同じものである。ここからはもう少し踏み込んでこの二つの変容原則の特徴について見ていきたい。

原則1:統合化について

カート・フィッシャーの発達モデルにおけるレベル0から12までの発達プロセスにおいて、統合化は一つのレベルから次のレベルに飛躍する時に必ず見られる現象である。これは、複数の原子が一つの分子を形成する様子と似ている。複数の原子が結合し、質的に全く異なる一つの分子が生まれる姿をイメージしていただきたい。

統合化にもプロセスがあり、統合化の初期の段階において、私たちがaとbという二つの能力を持っていたとする。それまでは、それらの能力は別々に発揮されていたが、取り巻く環境がそれらの能力を組み合わせることを要求してきた場合に、私たちはそれら二つの能力を関係付けようとする。

その後、それらを関係付ける過程を経て、徐々に二つの能力が組み合わさった形で発揮され始め、あるところで完全に統合されて発揮されるようになる。統合化が完成すると、レベルLにあった二つの能力aとbは、レベルL+1にある新しい一つの能力dに結晶化される。そのイメージは「a*b=d」という数式で表され、統合化とはつまり、左の式における「*(掛け算)」の記号を意味するのだ。

例えば、「キーボードを実際に目で見ながら打つ」という能力と「打たれた文字がパソコンの画面上で正確に記載されているかを確認する」という能力を別々に発揮していた状態から、両者を掛け合わせることによって、「ブラインドタッチ」という新たな能力が生まれるというのは、統合化の一例だろう。

ブラインドタッチという新たな能力が生まれた際には、キーボードを目で見ながら打つという能力が質的に変容し、もはやキーボードを見る必要性がなくなっている。ここではつまり、構成要素の能力にも質的な変容が起こり、二つの能力の単純な総和がブラインドタッチという新たな能力を生み出しているわけではないのだ。

統合化のプロセスの本質は、私たちにとって一見すると逆説的に思える。例えば、与えられるタスクのレベルがLであり、持ち合わせている能力のレベルはL-1である場合、基本的にはそのタスクを遂行することは不可能である。しかし、統合化はこの不可能なことを可能にしてくれる。

つまり、持ち合わせている能力のレベルがタスクレベルより低くても、レベルL-1の能力を複数統合させ、レベルLの能力を形成することができればそのタスクを遂行することができるのだ。

ただし、注意が必要なのは、統合される能力の各々が成熟したものでなければならないということだ。どういうことかと言うと、aとbの能力がともにL-1のレベルに到達している必要があり、両者のレベルがL-2である場合や片方の成熟が不十分である場合には統合化は起こらず、単なる融合しか起こらない。

もう一つ重要なことは、統合化のプロセスは時間をかけて成し遂げられるということである。統合化の基盤となる一つ一つの構成能力が成熟するためにも時間がかかるし、何より二つの能力がバラバラに発揮されていたところから、完全に統合されて発揮されるようになるまでに時間がかかるのである。

そして興味深いのは、統合化のプロセスは連続的であるが、次のレベルに移行する瞬間は非連続的であり、大きな跳躍の瞬間だということである。まさにこれは、発達に伴う「大いなる飛躍」と形容してもいいだろう。

最後に、「統合化」という名前の由来についても言及しておきたい。二つの異なる能力を単純に並列化させて発揮する場合には、新たな能力レベルが発現することはなく、二つの能力が相互作用を生む形で結合して初めて、質的に異なるレベルに移行するのだ。

能力の発達に伴う大いなる飛躍は、能力の質的な変容であり、それは単に能力の量的な拡大ではなく、構成能力の単なる組み合わせでもないことから「統合化」と呼ぶのがふさわしいだろう。

原則2:複合化について

複合化という変容原則は、能力のミクロな発達を説明する。先ほどの「統合化」との違いをもう一度確認すると、統合化は能力の質的な変容、つまり「垂直的な発達」を示唆するものであるのに対し、複合化は能力の量的な拡張、つまり「水平的な発達」を表すものである。

先ほどのように記号を用いて説明すると、複合化においては、レベルLにおけるaとbという二つの能力が組み合わさり、同様のレベルLにあるより複雑な能力cとなる。このイメージは「a+b=c」と表すことができ、「+」の記号が複合化を示す。

統合化と同様に、複合化は有機体要因と環境要因によって引き起こされる(有機体要因と環境要因については記事217を参照)。つまり、複合化が起きるためには、そもそもaとbという二つの能力を兼ね備えておかなければならないし、ある環境においてそれらを組み合わせて発動させることが迫られている必要性がある。

ポイントは、統合化では二つの能力が組み合わさることによって、一段上のレベルの新たな能力が出現したが、複合化では二つの能力が組み合わさることによって、それらの能力と同一レベルの新たな能力が生まれてくるということである。

例えば、聞いた内容をメモする能力というのは、聞いた内容を理解する能力と文字を書く能力の単純な合算であり、複合化の例だろう。先ほどのブラインドタッチの例と異なり、聞いた内容をメモする能力を発動させる際に、その構成要素には質的な変容が伴わない。二つの能力の単なる総和によってメモする能力が生み出されるため、これは複合化と言える。

複合化は何も二つの能力の組み合わせに限らず、それ以上の数の能力を組み合わせる時にも生まれる。多くの能力を組み合わせる際に重要になるのは、それぞれの能力に習熟し、それらが無意識的に発動できるようにならなければならない。

人間の記憶量には限界があり、意識的に作動させることのできる能力の数には限りがあるということを考えると、無意識的に能力が発揮できるまでに修練を積むことが大切となる。また、レベルL+1の能力dと下位のレベルLの能力eを組み合わせて、レベルL+1の能力fを生み出すことも可能である。

複合化は、比較的大きなミクロな発達プロセスで起きるという特徴を持つが、変容原則の(3)焦点化(focusing)と(4)代用化(置換化:substitution)は、より小さなミクロな発達プロセスで起こるという特徴がある。この点も含めて、また別の機会に残りの変容原則について紹介していきたい。

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